2006年 07月 15日
オダギリジョー主演、西川美和監督で話題の『ゆれる』。いやはや、えらいよく出来てるわ! 評判いいのも納得。 ゆ れ る 東京でカメラマンとして成功した弟が、母親の一周忌で実家に帰る。そこで家業のGSを継ぐ兄と、兄が想いを寄せる女性であり、かつて関係を持っていた智恵子と再会する。運命の日、3人は思い出の渓谷へ向かい、そこで事件は起きた。吊り橋から智恵子が転落し、死亡。吊り橋上には茫然自失の兄。果たして智恵子は事故死なのか、兄が殺したのか。事件の真相と、兄弟の深層をめぐり、ドラマは意外な結末に向かって揺れ動き続ける。 とにかくプロットが秀逸。智恵子が落ちたのは、兄が突き落としたからなのか、事故だったのか。転落の瞬間が映されないので、観客には真実がわからない。現場を見た弟は兄をかばう証言をし、最初は事故だとした兄が後に自分がやったと自白する。しかし法廷で兄は再び証言を変える。それを傍聴していた弟は…。上手いのは、兄弟のキャラクターや心理状態を考えると、2人の証言を鵜呑みにはできないところ。最後まで"本当のこと"がわからない。 そんな展開を支えるのは、しっかりした人間描写。兄はマジメで優しく人殺しなんてできるはずない。しかしそれゆえに、淡い恋を実の弟によって潰された無念さと、長年抱えていたであろう弟への劣等感というのは少ないシーンからも十分に伝わる。これが衝動的な殺意につながっても不思議はないし、タガが外れたように虚偽の発言をしてもなんの違和感も無い。 一方で奔放に生きてきた弟。東京で成功した優越感と、兄を貶めた罪悪感。その生き方は知らぬ間に誰かを、兄を、傷つける。彼の中にある兄弟愛は無償なのか、それとも独善なのか。このあたりのリアリティも上々。というわけで、この作品は兄弟っていうデリケートな関係性を、弱さ、狡さ、脆さっつー人間くささたっぷりに描いたヒューマンドラマ。『間宮兄弟』の対極っていえるかもね。兄弟だからって理由だけで無条件に互いを理解すること、信頼することはできない。言葉からそこに込められた真意を汲み取ることはかくも難しいのだ。 脚本も手がける西川美和、イイね。映像といいテキストといいセンスの良さは明らか。若干31歳。しかもけっこうカワイイから雑誌への露出も多かった。主演2人も抜群の演技で、オダジョー好き女子から、サスペンス好き男子まで、幅広く唸るであろう一本でした。う〜ん、ゆらされた。ただし! オレはこのラストからは救いを感じなかったぜ。 <7月19日追記> あーわかってしまいました。この映画、すべてに意味が在り過ぎるんだわ。このセリフはこういう心情、この態度はその裏のキャラクター、この映像はあれのメタファー、てな具合にぜーんぶ何かしらの意図を感じさせる。その作り込みに隙がないからどこかしら窮屈なんだろなー。ハイ、独り言ですよ、と。
by april_cinema
| 2006-07-15 00:00
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