2009年 06月 12日
落ち込むほどに憤る。『アメリカン・クライム』DVD鑑賞。両親が遠方に仕事に出るため、シルヴィアとジェニー姉妹はシングルマザーであるガートルードの家に預けられる。6人の子を抱え、自身の体調も思わしくないガートルードは、ある些細な出来事をきっかけに、シルヴィアに厳しく当たるようになる。1965年に起きたアメリカ史上最も凶悪な犯罪の1つといわれる少女虐待事件を、裁判記録を引用しながら忠実に再現。 エレン・ペイジ観たさで借りてみたら、こんな非道い事件モノだったなんて。製作国のアメリカでも劇場公開は見送られ、テレビ放映になったそう。アメリカ人にとってもトラウマになるほど酷いってことか。確かにあまりにもヘヴィー。目を背けたくなるほどの虐待っぷりと、悲惨過ぎる結末。しかしその恐怖に過剰なバイアスはかけずに正面からスクリーンにしっかり展開した手腕は、評価に値するなぁ(でも実際は映画に再現できないほどさらに酷いことがあったとか…)。裁判シーンを挿入しながら、シルヴィア自身による回想という手法をとり、そしてクライマックスでは一瞬救いのような幻想も(これが幻想に過ぎないことが絶望感をあおるぜ)。ブラックアウトを多用した場面転換や、表情の抜き方、そして音楽もこのドラマに不謹慎なほどのリアリティを与えてくるから、正視に耐えないのにまったく目が離せない。 エレンがずいぶん幼く見えると思ったら、これ、『ジュノ』の前に撮ってるんだね。60年代の雰囲気をかもしつつ、ガリガリの少女を熱演。この若さでこういう作品選びをするとは、根っからの役者気質なのかと想像しますな。感情を抑えた中で、不安と怯え、果敢なさと純粋さを表現。その他の子役たちも、精神的にきついシビアな役を好演してたと思います。ガートルードを演じたキャサリン・キーナーも業と不幸の間で狂気に染められてくくたびれ鬼畜マザーになりきる。 テーマはもちろん児童虐待ありき。事件を風化させるのではなく、今も世界のあちこちで起きているであろうこの哀しい出来事を止めるために。自分が加担しないのはもちろん、悲劇を未然に防ぐために。てのが大前提。それに加えて、タイトルに『American』という言葉があることに、個人的にもうひとつの意味を感じる。"あるアメリカの犯罪"。なぜわざわざアメリカという単語を用いたのか。<1>これは他人事じゃなくアメリカの出来事なんですよ、とアメリカ人へのメッセージ <2>アメリカと限定することによって、それをアメリカだけではない世界中の問題として逆説的に共有したかったのかもしれない <3>けど、オレが感じたのはそれよりも、アメリカ国家という家族。 劇中、テレビからベトナム戦争に関するニュースが流れてくる。ガートルードは、他所の子を排除してでも「自分の子たちだけは何をしてでも守らなくてはならない」と言う。この二つが重なって見えるのは、国という単位の家族。アメリカは自国の兵士、自国民を守るためなら、それ以外を犠牲にしてもいい? ある家族の事件から、アメリカという自国に対する警鐘の意味を込めたんじゃないか、そう思わせるさりげない演出もニクかったね。<勘繰りすぎかも 決して気持ちのいい映画ではなく、まず溜め息が先についちゃう。人にも特にはおすすめしないけれど、十分な質量と意義のある映画か。というか、エレンの他の日本未公開作品が観たい…。こんだけ重いのをDVD化するならほかのもしてよー。DVDリリース熱望!
by april_cinema
| 2009-06-12 00:00
| All-Star
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