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2009年 06月 19日
感想_愛を読むひと
感想_愛を読むひと_b0130850_345273.jpg言えない秘密があっても、愛なのよ。『愛を読むひと』6月19日公開。1958年ドイツ、15歳のマイケルは21歳年上の女性ハンナと知り合う。彼女に惹かれたマイケルは家を訪ね、やがて2人は肌を重ねる。逢瀬を重ねる日々、ハンナはマイケルに本の朗読をしてもらうように。それが2人の新しい儀式だった。しかし、なんの前触れもなくハンナは姿を消す。2人の再会の場所は1966年、マイケルが大学の特別講義で訪れた裁判所。被告人のハンナには2つの重大な秘密があった。1つはナチのもと強制収容所の看守として働いていた過去があったこと。そしてもう1つは…。
『愛を読むひと』公式サイト|6月19日(金) TOHOシネマズ スカラ座他にて全国ロードショー

もうお見事のひとことだわー。最初から最後までダレることなく紡がれた珠玉の物語。かくも狂おしき愛情の形がいまだかつてありましたでしょうか? 幼稚な惚れた腫れたではなく、個人の尊厳とドイツの歴史の間に編み込まれてるから、どっぷり浸っちまうぜ。これはやっぱり原作が大ベストセラーだから? そのストーリーだけで十分に惹き付けられる。でも脚色賞とかもオスカーにノミネートしてたし、エピソードは追加されてるらしいし、とにかく映画としてもいいんだな。そして原作すんごい読みたくなった! って思うこと自体この作品の良さの証明でしょう。プロデューサーとして参加した亡きアンソニー・ミンゲラが好みそうな題材ですわ。

観客は、いくつかのwhy?を重ねながら成り行きを見守る。それはまさに行間を読むような作業。劇中にも出てきた、あえての秘密による想像の余地。なぜハンナはこういう行動を取っているのか。どうしてマイケルはああしなかったのか。直接的な説明はないけれど、きっとこうに違いないとか、もしかしたらこんな気持ちなのかも、なんてことを十二分に感じさせる。こういう文学的な描き方はもろ好み。少しずつ秘密は明かされるものの、それでもいくつか謎のままなところはある。きっと本人にしかわからない葛藤と選択。ああ、何度でもみたくなるほどに深いぜ。

そんな行間イズムがスクリーン中に見事落とし込まれてて、小説と映画、そして現実という三つ巴が不思議かつ極致のハーモニーを奏でてやがる。エピローグ前のアメリカでのシーン。「カタルシスがほしいなら芝居か映画でも見てろ」ってセリフはまたこの作品の立体性っつーのか、多角性って言った方がいいのかな、それをぶっ高めるよね。虚構と現実は違う。どんなに想い想われても、なにも生み出さない愛が、現実にはある。すべてが綺麗ごとや美談では片付かない。芝居じみた現実もどんなリアルな創造もそれは相容れないもの。なんて見方をすると、さてハンナとマイケルの関係はどうだったのか、ってまたさらに楽しめそうだわ。

語るポイント多いなー。で、オスカー獲得のケイト。個人的にはエイプリルのインパクトの方が強いんだけど、今作もすごい。熟れおちた脱ぎから老けまでとことん演る外的なものもさることながら、この秘密を抱えた複雑な女性を情感たっぷりに演じてたなぁ! 愛しているか?と率直に問われ目泳ぎのシーンなんて絶品でしょ。ハンナはきっとボキャブラリー少なかっただろうから、そういう感情表現の部分で15歳のマイケルと対等だったのかもしれないね。いやーとにかくケイト、作品ごとにモンスターになっていく気がするよ(もちろん素晴らしい女優と言う意味で)。

レイフ・ファインズの魂の朗読はすんごくよかったし、新人君も大活躍だし、映像も美しかった。なによりも人の心に深く切り込んだ物語にどっぷり惹き込まれたぜ。文芸大作というところで比較すると、『つぐない』に負けず劣らずの傑作でした。邦題もいいよね。

感想_朗読者

<09/11/01追記>
ギンレイホールにて再鑑賞。ああ胸が痛いったらありゃしない。2度目はずーっとマイケルの気持ちを考えてました。あまりにも大きかった15歳で空いた穴。やっと忘れられるかどうかというときに再会。知ってしまった秘密。それもまた大き過ぎる出来事。きっとマイケルは思ったろう。なぜ気付いてあげられなかったのか。なぜもっと彼女のことを知ろうとしなかったのか。若さゆえ愛欲に溺れていた自分を突きつけられるのは二十歳そこそこの男子には残酷な体験だよね。そして人間には秘密があるということを知り、彼自身も秘密を共有することになり、ますます他者の中に深入りできなくなってしまう。

そしてマイケルはどこかでハンナを赦せずにいる。何も言わずに消えてしまったこと。そして不可避だったとはいえナチに加担していたこと。だけど秘密は守る。そのために面会をしなかった。だけれど最後までその行為に意味、いや正義を見出せなかったからこそ、マイケルは手紙を書けなかった。彼女と何を話すべきなのかわからなくなってしまったからなんだろう。

秘密を最後まで守り通し、ようやく解放されたマイケル。ジュリアに語ることでようやく、長過ぎる初恋に終わりが来たということか。ああ、なんとも重いがしかし、改めて傑作でした。

by april_cinema | 2009-06-19 00:00 | MVP


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