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2009年 10月 10日
感想_ヴィヨンの妻
感想_ヴィヨンの妻_b0130850_212439.jpg文学の香りをたっぷりと。『ヴィヨンの妻』10月10日公開。泥酔し、深夜に帰宅した作家の大谷。妻の佐知が出迎えると彼は借金にまみれたあげく大金を盗んでいた。被害者の椿屋にわびをいれ、借金返済のため働き始める佐知は仕事という新しい生きがいを手に入れ、今までにない輝きを手に入れる。しかし大谷は相変わらずロクに家に帰らず、金は入れず、浮気を繰り返し、挙げ句心中騒ぎまで起こす。佐知は、それでもしなやかに、大谷のそばを離れない。
ヴィヨンの妻

邦画にしては珍しくというか東宝作品とは思えない、純文学の香りが漂う良映画でしたわ。始終淡々と描かれる夫婦の生活。大谷は100%のロクデナシで、自分の中の暗闇を拭えない身を持ち崩し系の腐れ小説家。まさに太宰の世界。呑まれるまで呑んで、それでも救われも逃げられもしない中で、でもその影には真実が映っているから、女たちは大谷を捨て置けない。浅野さんはなんだか太宰その人にも見えてくるハマリ役。不器用で、生きるのが下手で、だけどどうにも放っておけなくて。

で、そのそばにいる妻。愚痴を言うでもなく、けなげに、だけれどしなやかに。したたかではないのだけど、女性にしか出せないようなその佇まいは、そうずばり母性。実子に向けたものではない、大谷をも包み込んでしまう母性がこの物語の中核を貫いている。その妙な空気読めてない風に松たか子がよくハマってるんだわ。さらに、大谷の周りのさまざまな女性たちがまた、いろんな女のサガと生き方みたいなのを魅せてくれててなかなか味わい深い。別にそんなことちっとも語られやしないんだけど。

地味な物語なのにどこか惹き付けられて、キャストは豪華。主演2人以外に堤さん、ブッキー、広末などなどに、抑えどころは伊武さんやら室井さんやらでしっかり。とにかく語り口は淡々としているけれど、それが退屈でも冗長でもなく、昭和文学のテイストがほどよく薫ってましたわ。まあ、でももう少しヒネリがほしかった気はするけど。傑作短編という評もある原作、読んでみたいですね。というか太宰作品をちゃんと読むべし、か(ロクに読んだことないの)。

ちなみに同じく太宰原作の『パンドラの匣』も同日公開中。

by april_cinema | 2009-10-10 00:00 | Starter


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