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2010年 12月 11日
感想_ノルウェイの森
感想_ノルウェイの森_b0130850_12235852.jpg物語の、森の、もっと深くへ。『ノルウェイの森』12月11日公開。村上春樹の小説『ノルウェイの森』を、ベトナム系フランス人監督トラン・アン・ユンが映画化。ワタナベに松山ケンイチ、直子には菊地凛子、そして緑を演じるのはモデル出身の水原希子。もはや物語の説明は不要でしょう!
映画|ノルウェイの森

期待も不安もたくさんの中の鑑賞。結論は、とても良かったんじゃないかと、思っている。おそらく賛否両論なことは間違いなく、どちらかといえば否定意見のほうが多くなるのではないかとも予想できる。なんせ原作が原作だからね。でも、ぼくはこれはこれで、ひとつの『ノルウェイの森』になってたんじゃないかと思う。トランの『ノルウェイの森』に。

思ってた以上に原作に忠実だったことは驚き。新たに追加された原作にない台詞もあったりするみたいだけど、違和感なかったのですんなり受け入れられた。映像はもちろん美しく、学生運動時代の日本の空気感を、ノスタルジックとは違った、憂いと湿り気のある画に閉じ込めたのはとてもすごいと思う。直子が入院する山の中や、直子を失ったワタナベが放浪する場所とか、そして話題になっている直子とワタナベの大自然の中での長回しにも惹き付けられたなー。ふたりの部屋なんかもよかったよね。

キャスト陣がイメージに合うかどうかといえば、思うところはもちろんある。けど、その先入観は捨て置いたほうがいいんじゃないかな。凛子たんはどう考えても直子には見えないけど、先入観さえ捨てればそんなに気にならないかなって気もする。緑だって、オレはどうしても蒼井優にやってほしかったけれど、希子ちゃんは希子ちゃんで可愛かったから許せる。松山君はさすがの中のさすが。この難しいキャラクターと見事に融合してたよ。基本的に、小説そのままっぽい台詞が多いところ、口語に変換せずにそのまま文語として台詞を読んでます、という感じで表現していたのがよかったな。変に日常にこなれさせてないというか。それを浮かさずにやってのける松山君がすごいし、逆に演じすぎなくていいところが希子ちゃんには幸いしていたように思う。

まあ、キャストに関しては、監督が長身細身が好きなのでは?って気がしました。3人のシルエットのバランスがちょうどいい。海外ウケを考えたか?? その他、キズキの高良くん、永沢さんの玉鉄、レイコさんの霧島さん、突撃隊の柄本君とかは、原作イメージに近くてよかったよね。

で、少なくとも、原作の世界観は壊されていないと思う。愛と喪失。奇跡と痛み。セックスと再生。決してシンプルとは言えないメタファーにあふれた中身を、きちんと消化しながらも、メタファーはメタファーのままで残しておいてくれたのは原作ファンとしては喜ばしいことだったと思う。これはやっぱり原作に相当の思い入れがあるからこそできる技。できることならば、この原作のことが好きなもっといろいろな監督がつくる『ノルウェイの森』が観たいとも思ったよ。トランはこれをつくった。じゃあ誰ならどんな『ノルウェイの森』にしてくれるのか。ってね。

映画を観て、また小説を読みたいと思ったし、もう一度映画を観たいとも思いました。いろいろな意味で、記憶に残る作品です。ところで、原作を読んでないとさすがにこの映画、なんじゃこれ?ってなっちゃうかもしれませんね。『ノルウェイの森』を未読な大人が世の中にどのくらいいるのかわからないけれど。

<2010/12/25追記>
2回目の鑑賞。客層は年配の方多くて、原作刊行時青春時代な感じでしょうか。さて、2度目はなんだかとても混乱しました。映画に限らず、小説も含めて、この物語が語りかけるメッセージってなんなんだろう。愛すること? 傷つくこと? 失うこと? そのどれもなんでしょうし、ひっくるめると「生きる」ということか。生きるとは愛すること。生きるとは傷つくこと。生きるとは失うこと。そこが、どこであっても。どこでなくても。

たとえば、緑とワタナベの会話。「それは愛とはなんの関係もないように思えるけど。で、君はどうするの?」「愛してあげるの」。ワタナベは初めて愛するということを意識する。たとえば、手を傷つけたワタナベ。流れる血は痛みを伴うが、傷跡はやがて消えてしまう。でも、直子の傷は果たして消えることなどあるのだろうか? レイコさんの心は? ひとつひとつのシーン、ふと見せる表情、口にする台詞、すべてに意味があり、その意味は多義的であり、そのすべてと密接に、込み入って絡み合うからこそ、答えは見た人それぞれに委ねられるんだな。オレにとっては、やっぱりこれは「生きる」ことの物語なんだと思った。「死を内包した生」。

前回は、まあいいのかなと思った凛子たんが、今回はちょっと気になっちゃったな。やっぱり声質と、テンションのバランスが、なんとなくつくられた風に見えて、ナチュラルボーン直子には見えなかったんだよなー。ルックスとは違う次元で。それから、青春映画と水というのはしごく相性がいいと勝手に思っているけど、今作品のプールのシーンは秀逸ですよね。エロスと覚束なさが合わさってて。ジョニー・グリーンウッドの音楽は、ときに大げさにも思えました。静寂が語るところの多い映画だけに、too muchに思えたところもちらほらと。

でもあっという間の2時間ちょっと。やっぱり小説を読み直すしかないなこりゃ。

by april_cinema | 2010-12-11 00:00 | All-Star


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