2011年 06月 25日
果たしてこれは何の物語と受け止めるべきか。『BIUTIFUL ビューティフル』6月25日公開。妻と別れ子供二人と暮らすウスバル。生業は、不法移民への職業斡旋など。そしてもうひとつ、死者の魂に触れ最後のメッセージを受け取ること。そんなある日、彼は自らが末期がんに冒されていることを。残された時間はあと2ヶ月。まだ小さな子供たちのため、死を前にして彼は最後まで生き抜こうとする。 映画『BIUTIFUL ビューティフル』公式サイト アレハンドロ待望の新作は、得意とする群像スタイルではなく、一人の男に深く入り込んだ物語。命と、家族をテーマに、余命僅かな男の最後の生き様を描く。主演はハビエル・バルデム。人生に疲れ果てたような様で、社会の淵を彷徨いながらも子供たちのために生きようとする姿は、ある種つかみ所のない物語ながらも多くの人の心をつかみそう。しかしこれが単純に同情を誘うようなもんでもなく、一筋縄ではいかない。なるべく多くを残そうと試行錯誤するものの、簡単にいい結果にならないどころか酷い事態も引き起こす。元妻は相変わらず情緒不安定だし、体はどんどん言うことを利かなくなってくるし。さらには移民や低所得層といった社会事情まで絡んで来るし、父を知らないウスバルが、父として最期に何をするのかという親子関係へのメッセージもある。複雑で、なおかつリアルなその設定は、群像劇じゃなくても十分に多層的なんだわ。 ウスバルには死者と交信する不思議なチカラが備わっているというのもミソ。これまでこの世を去れずにいる死者の未練を掬いとって来た男が、自分の死期を前にして藻掻き抗う様が、皮肉でもあり痛々しい。安らかな眠りなんてそこにはなくて、それでも戦わなくてはならないのは、彼が人の親だからだろう。どんな危ない橋を渡ってでも、子供たちが幸せに暮らせるように、という願いを込めながら。監督が自らの父に捧げたこの映画、世の中のすべての親は、命を賭してでも子供たちを守り、それが未来を作っていくんだってことを言っているように感じたな。 絶望的とも言える事態に囲まれながら、それでもこの世界にはまだ美しさが残っているはず。父が遺したダイヤの指輪が美しいのではなく、父から子へと受け継がれていく命の連鎖そのものこそが、ビューティフルなんだろう。わかりやすい映画じゃないけど、しっかり向き合いたい150分でした。
by april_cinema
| 2011-06-25 00:00
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