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2015年 11月 14日
感想_恋人たち
b0130850_22391991.jpg生きていかねば。『恋人たち』11月14日公開。3年前に妻を通り魔に殺された篠塚は、今もやり場のない思いを抱えたまま。一時仕事ができなくなったこともあり、保険料の支払いも滞るほど。しかも、犯人に責任能力がなかったという最悪の判決まで出て、訴訟を起こすこともままならない。死ぬことも、殺すこともできず、篠塚は鬱々とした思いだけを飲み込みながら生きていた。平凡な主婦の瞳子も、同性愛者の弁護士の四ノ宮も、また同じように。
映画『恋人たち』公式サイト | 2015年11月14日(土)公開

橋口亮輔監督待望の新作は、その期待に応える傑作でした。重厚さは伴いながら、それでも生きる理由を示してくれ、いくばくかのユーモアも込められていて。冒頭の篠塚の独白シーンひとつで、この映画の本質が映し出されていた気がしたよ。完全なるリアリティっていうのかな。演技とはとても思えない、生きてる人そのまんまの台詞回し。もうこれでこの映画の世界を完全に構築してたと思ったわ。実際そのトーンは最後まで変わらず、すべての端役にまでちゃんと命が宿ってました。これはフィクションかもしれないけど、リアルそのものだって。だから、140分の長尺を感じさせなかったです。

篠塚の感じる通り、世間はくだらないことばかりだし、どうでもいいことで騒ぎ、おまけにバカばっかりだ。そんな世界で生きる意味がどこにあるんだ。一体なんなんだこれは。そんな気持ち、誰もがどこかで抱えている。どれだけ幸せに暮らしていても、時々その落とし穴は待っている。これは一体何になるんだろう。私はなんのためにここにいるんだろう。篠塚はその一番深い穴に落ちた。彼は何一つ悪くなかったのに。平凡な主婦も、同性愛の弁護士も、それぞれに大きかったり小さかったりする穴にハマる。僕たちのそばに、それはある。

それでも、だけど、僕たちは生きなくちゃいけないんだ。どんな苦しみや幸せが待っていても、そこで立ち止まる事はできなくて。理由なんてないし、意味だってなくていい。夢も別にいらない。ただ、生きなくてはいけない。それだけなのだ。それ以上でも以下でもないんだ。絶望でもないし、陳腐な希望でもない。でも、生きていれば、どこかで何かとつながることができるのも、それもまた本当のことなんだ。お腹いっぱい食べて、誰かと話して、少し笑えたら。篠塚にだって、テレビを観に来いと言ってくれる人がいた。先輩は、腕をなくして、きっと篠塚と同じ穴に落ちていただろうけど、今はこんなにも笑っている。あの東北から流れてきたという男は、震災によって土地を追われたんじゃないかと思う。怪しい準ミスにも何かがあったんだろう。そんな人生は、ぜんぜん楽じゃないけど、でも生きて誰かとつながることって悪くないって思わせてくれました。力強く。とても。

瞳子がふとおしゃれを始めるシーン。明るい音楽と合わせて、突然「ああ、生きないと」って思いまし。僕自身ここのところちょっとリズムが悪くてややふさぎ気味だったのだけど、このシーンで漠然と「頑張って生きないと」って思わされました。なんならちょっと涙ぐみそうなくらいに。そんなシーンじゃなかったかもしれないけど、でもなんかほのかな希望を見たんだよね。結局は彼女もどこに行けたわけじゃない。篠塚も救われたわけではない。四ノ宮だって。でも不思議と、救われたような気がしたんだよな。この感覚は、『その夜の侍』と似た感覚だったな。思いもよらないところで、人は救われる。

篠塚の職場、東京のいくつもの橋のチェックというのは、今の東京のメタファーだったんだろう。50年前に作られたいろいろなものにガタがきて、世の中のいろんなものが崩れかけてしまっている。もちろん、見かけはひび割れてても、中身はしっかりしているものもある。見上げれば高速道路に阻まれて、空は少ししか見えない。少しだけど、でも青空が見えて気持ちが晴れることもある。これこそ今の東京を象徴した絵だったんだろう。ラスト、空を見上げた篠塚の清々しさに、また、少し救われた気がしました。

この話をして『恋人たち』と名付けるセンス。僕は特定の恋人を指しているというよりは、すぐそばにいる"恋しい人たち"というニュアンスな印象を受けました。今年を代表する邦画ですね、間違い無く。
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by april_cinema | 2015-11-14 00:00 | MVP | Comments(0)
2015年 10月 10日
感想_マイ・インターン
b0130850_23594795.jpg完全無欠のデ・ニーロ師匠! 『マイ・インターン』10月10日公開。3年前に妻に先立たれた70歳のベンは、新たな生きがいを探してシニアインターンに応募する。採用されたその会社は、ブルックリンに構える気鋭のアパレルのECサイト運営会社。やり手の女社長ジュールズ専属となったベンは右も左もわからないながら、若者ばかりの社員たちに好かれていく。最初は難色をしめしていたジュールズも、やがてベンを信頼し始めるが、公私共にピンチが訪れる。
映画『マイ・インターン』オフィシャルサイト

恋愛じゃない、男女の信頼関係をきれいにまとめた秀作。とにもかくにも、ロバート・デ・ニーロ扮するベンが紳士すぎて泣けるわ。カジュアルなアパレル会社勤務でも毎日ビシッとスーツ。年季の入ったブリーフケースは超クールで(本気でほしいと思った)、きちんと持ち歩くハンカチは女性の涙を拭うため。仕事もデキて、マッサージ師にもモテてしまい、若造たちへの恋の指南もお手の物ときたもんです。これは『キングスマン』とあわせて、紳士のたしなみを学ぶための映画でしたわ。

それと相対するのがアン・ハサウェイ。若干年をとったなとは思わせるものの、美人社長がどハマりしてて、表情の喜怒哀楽の豊かなことといったら! さらには『プラダを着た悪魔』の続編と間違えそうな、シャレオツ衣装もまた似合うこと。ハイファッション一辺倒じゃなさそうだから、好感度も高いのね。メインふたりのウィットあり、情感ありの円熟のやりとりは、安いラブコメには出せない大人の味わいがありましたわ。いろいろつらいとき、こんな風になんでも話せるパイセンいたらたまらないよね。尊敬すべき大人に出会えるって貴重すぎる。

次なる主役はブルックリンか。元工場をリノベーションした設定のオフィスは、まさにブルックリンの世界観そのもので、シンプルかつ機能的でインダストリアルなインテリアはネット系ベンチャーにぴったりのクールさ。ベンのクラシカルな装いとのハーモニーも美しかったね。ベンとジュールズの自宅も、ダンボとか、パークスロープとかあの辺て設定なんでしょうな。そしてサポートキャストの若者たちもほどよいアクセント。

ママの家に侵入とか、デイビス居候とか、そのあたりの細かいエピソードはなくてもよかったレベルなのがちょっともったいないし、マットの浮気話もなんか残念なだけって感じもしなくはないし、あとちょっとベンのイケメンぷりにトドメをさすクライマックスがほしかったような気もするけど、それは欲張りすぎですかね。個人的にはベッキー役のクリスティーナ・シェラーちゃんが好みでしたよ。

てことで、カップルとかにも安心しておすすめできるデート映画。デニーロ世代の大人にも刺さるんじゃないですかね。
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by april_cinema | 2015-10-10 00:00 | All-Star | Comments(0)
2015年 10月 01日
感想_岸辺の旅
b0130850_23214952.jpg愛情は、目には見えないけれど。『岸辺の旅』10月1日公開。3年間姿を消していた夫、優介がある日突然帰宅した。彼は「俺、死んだよ」と告げ、見せたい景色があると妻の瑞希を連れ出す。ふたりの旅は、これまでの溝を埋めるように優しく流れていくが、終わりの日も近づいているのだった。
映画『岸辺の旅』公式サイト

カンヌある視点部門監督賞受賞ということで期待高めの鑑賞。予想とは少し違ったけれど、じわりじわりとくるいい話でした。言葉にするのがなかなか難しいけれど、目には見えないものの価値、についての映画だったように思います。瑞希が優介を待ち続けた日々、もう帰らないことを覚悟しながらも探し続けた時間、後悔もたくさんあっただろうことは、直接描かれないけれど予想に難くない。そしてこの映画はその価値を問いかけるものだったんだろう。

優介と同じ、死者でありながらこの世に残る人が3人出てくる。みんな、この世に何かを思い残している。それは残された人にも同じように思いを残している。肉体が消滅したから、それで終わりではない。光という物質に質量がないように、人の想いにも実態はないけれど、でも確かにそこに存在する。そしてその見えないものが人をつなぎとめる。ときには、死者さえも。優介が村の人たちに教える光の話、宇宙の話はその直接的な比喩であり、そして同時にいかに今の私たちが小さなことにとらわれて大事なことを見失っているか教えてくれている。宇宙から見たら始まったばかりの私たちの歴史で、私たちはすべてをわかったかのようにあまりにも効率にとらわれすぎているのかもしれない。

オカルティックな設定は、よくわからないこともいくつかあったんだけど、きっと未練に区切りがつくと成仏してしまうっていう基本的なフォームだったのかなと思います。優介は、瑞希の求めを一度拒否しておきながら、最後受け入れたのはそういうことなのかなと。食堂の娘も最後にピアノを弾けて満たされた。新聞屋のおっちゃんも、自分の罪を認め最後はお酒で忘れて未練を断ち切ったんじゃないかと。最後のダメそうな彼は、悔いを最後まで残していたようだけれども。

浅野さんは感じはいいけど、ぶっきらぼうないつものやつがハマってて、特に先生になったときはすごく良かったです。深っちゃんもいつもの感じで悪くないんだけど、そろそろこの大人かわいい路線はワンパターンすぎる気がするわ。リトル吉永小百合みたいになってきた気がする。もっと毒々しい女とか、イメージ違う役やってほしいなーって思います。今回の役なら永作がやったほうが良かったんじゃないかともちょっと思う。そして、見るとき忘れてたけど、我らが蒼井優たんも短いけど出てましたー! 珍しいOLルックに萌えつつ、ちょっと感じ悪い女を好演しててファン的には満足です。

ものすごく感動するわけではなく、淡々と紡がれる愛の詩。でも、目には見えない人の想いや愛情の重さという、大事なことが描かれていると思いました。ところでこれ見たの10.25なんだけど、上映3週すぎただけで一気に上映館数減ってて、ますます映画業界シビアって思ったわ。黒澤清×浅野忠信×深津絵里だよ???
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by april_cinema | 2015-10-01 00:00 | Starter | Comments(0)
2015年 08月 08日
感想_さよなら、人類
b0130850_1121586.jpgシュールすぎね? 『さよなら、人類』8月8日公開。"おもしろグッズ"を売りあるく2人の冴えないサラリーマン。あるバレエ教室の先生と教え子。ロシアへと遠征に出る国王陛下と近衛兵。3つの死との出会いから始まり、いくつかのエピソードが不思議に折り重なるロイ・アンダーソン最新作。
映画「さよなら人類」オフィシャルサイト

ストーリーは説明できません。なぜなら、話の筋はないから。関連性や連続性はありつつも、基本ワンシチュエーション、ワンエピソードが39個連なる不思議な作品。哲学的で観念的なので、理解しようと思うとどこにも辿り着けないというか、完全に置いてけぼりにされると思う。おそらく、事前にしっかりこの映画の予備知識を入れておいたほうが楽しめるのではと思う。監督は何者なのか。どういう作品なのか。なんせオフィシャルサイトに「面白く観るための7つの事柄」なんて項目があるくらいだから。僕はそれをしなかったのでかなり取り残されました。

それでも強引に意味づけをしつつ、あとから公式サイトなんかを見ていくと、後付けながらなんとなくのメッセージは受け取れる。人間の残酷さと哀しみは、ずーっと繰り返されてきていて、それでもなんとか前を向いて生きているってこと。くっついたり、離れたりしながら。美しいものに憧れながら汚れた行為に手を染め、死からは逃れられず、奴隷行為も、動物実験も、やってきた僕たち人類のなんと愚かで、それでも愛おしいことよ。

ワンシーンごとにワンセット、固定カメラで撮るというスタイルが舞台っぽくて、あの人物があっちに顔を出したり、あのシーンとこのシーンがゆるやかに呼応してたりして、おもちゃみたいな楽しさはあるのかもしれない。キャラやストーリーではなく、ひとつひとつの絵を味わって、ちょっとその向こうを想像してみるのがコツかもしれません。かなり訓練が必要だと思うけどね。
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by april_cinema | 2015-08-08 00:00 | 6th-man | Comments(0)
2015年 06月 27日
感想_アリスのままで
b0130850_1355040.gif世界の一部であり続けたいということ。『アリスのままで』6月27日公開。言語学者として名声を博し、愛する夫、3人の子供達に恵まれるアリス。幸福な50歳の誕生日を迎えたが、ここのところ単語が抜け落ちるような感覚がある。ランニング中になじみのキャンパスで迷子になった。診察を受けると、若年性アルツハイマーと診断される。少しずつ、でも確実に、失われ始めるすべてのこと。アリスと、家族の物語。
映画「アリスのままで STILL ALICE」公式サイト

主演のジュリアン・ムーアがついにオスカーをとったことで知られる本作。それも納得の演技でした。華やかに美しい母であり教授であったところから、すっぴんで自分の名前さえも言えなくなっていくまで、短期間での変化を、そして心の葛藤を、過剰になることなく演じるのはさすがの一言。取り乱すのは最初だけ、すぐにみずからを受け入れる知性の高さと、それゆえに損なわれていくものの大きさも、家族のショックも丁寧に描き出しています。

これ、監督自身もALSに冒されながらも撮影をしたそうで、自身の体験、感情が込められているのだそう。自分が自分でなくなっていく感覚、でもそれに屈することなく最期まで自分であり続けたいと願う気持ち、どちらも痛いほど伝わってきて、目が離せませんでした。監督は、つい先日お亡くなりになったそうで、でも最期の仕事でこれだけの作品を残したのだから、もう本当に素晴らしいとしか言いようがないですね。不思議な現実とのリンクです。こういうのを、奇跡っていうんだろうな。

さて。テーマとしては、決して目新しいものではないと思うけど、それでも心をとらえるのは、アリスが世界とつながっていたいという気持ちがよくわかるからだろう。彼女は最初、ガンと違って恥ずかしい、という。単純な質問に答えられないこと。同じことを何度も聞いてしまうこと。ひいてはそれすら自覚できていないこと。周りの怪訝な様子を見てはじめて、自分の異変に気付く恐ろしさを、この映画では端的ながら効果的に伝えてきます。でも、変に病状の変化とか家族のショックとかには重点を置いてないんだよね。あくまで、アリスがアリスであろうと戦う姿にフォーカスしているからこそ響くものがあるんだろう。

ハイライトはやはり彼女のスピーチ。病に冒されながらも、彼女自身の誇りを持って、そして機知をもって、言葉を紡ぎ、蛍光ペンで線を引きながら放った言葉は、確実に心をとらえる。私はどんどん忘れる。もっとも大切な記憶さえも。それでも私は世界の一部でありたいと願う。もっとも怖いことは、失っていくこと以上に、世界の誰からも相手にされなくなることなんだろう。僕は、リディアが言うような個人的感情を交えずに話そうとするアリスが失敗をするんじゃないかと思ったけどそうじゃなかった。あくまで彼女のファイティングポーズを、最期まで戦う意思と、その気高さを伝えたかったんだね。僕が変に上から目線で見ていたんだと思って恥ずかしくなりました。

あと、テクノロジーを大事にするのは、監督自身の体験なんだろうな。テクノロジーは確実に私たちの助けになっていること。これは忘れないほうがいいと思う。五体満足だと気付けないことかもしれない。
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by april_cinema | 2015-06-27 00:00 | All-Star | Comments(0)
2015年 05月 23日
感想_サンドラの週末
b0130850_13532986.gif究極の選択。『サンドラの週末』5月23日公開。うつ病が完治し、職場復帰が目前のサンドラだったが、会社から解雇を言い渡される。不服を訴え、サンドラ復帰を社員の再投票で決めることになるが、復職の条件は、同僚16人のうち過半数にボーナス1000ユーロを放棄させること。投票は3日後、月曜の朝。同僚全員を説得して回るサンドラの短くて長い週末が始まった。
映画『サンドラの週末』オフィシャルサイト

主演のマリオン・コティヤールがアカデミー賞主演女優賞にもノミネートされていた作品で、ダルデンヌ兄弟作。マリオンはうつ病あけで精神的に安定しない女性を演じてますが、相も変わらず美しいわー。そして作品は静かにいろいろと考えさせるわー。

ほぼワンシチュエーションドラマといってもいい感じの展開。サンドラは、とにかく同僚を訪ねる。1000ユーロのボーナス or サンドラの復職というわりと究極の選択の中で、サンドラの復職を選んでもらうというミッションはかなりハードルが高い。居留守を使う者、要求を突っぱねる者、苦しい家計を訴える者。一方でサンドラに味方する者、一度はボーナスを選んだ自分を責める者、サンドラの親切を今も忘れない者。正解はない。価値観はそれぞれ。サンドラだけが特別なわけではないから。ボーナスを選んだとしても責められる理由はない。

それだけの話だけど、小さな伏線があちこちに。主任の陰謀説も真相はあやしいし、そうなると最終的な投票結果も果たして不正はなかったのかという疑問も。そこにかぶせて社長からの最後の提案は随分やってくれるぜって感じ。でも、資本主義社会ってこうなっちゃうし、なにも会社だけに限った話じゃないか。パイの数が限られている。それを手にできないものが必ず出る。そのとき果たしてどうするのか、と。倫理感が問われるなー。

自己犠牲や奉仕だけで結論づけられないし、隣人愛ということだけでもないし、お金か仁義かという二元論でもないし。こういう複雑さは社会のあちこちに転がってるよね。単純なプロットでそれを描くお手並みはさすがというべきか。同僚たちにもそれぞれの背景があって群像劇っぽくも見えるし、移民のこととか、親子関係、結婚関係、共働きで生活がやっとのこと、地方都市の抱える問題、グローバリゼーションの弊害、いろんなフランスの世相も反映していると思われます。

娯楽性はないけど、考えさせられる映画。今にも逃げ出しそうなサンドラが立ち向かったことがエライ、ってだけにしちゃうのはもったいない。さて、僕はどちらに投票しただろうか。
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by april_cinema | 2015-05-23 00:00 | Starter | Comments(0)
2015年 05月 23日
感想_追憶と、踊りながら
b0130850_13163422.gif真実は優しくはないけど。『追憶と、踊りながら』5月23日公開。ジュンはロンドンの介護ホームで暮らしている。唯一の楽しみは息子のカイが訪ねてくる時間。でも、ジュンには不満があった。カイが自分と暮らさずに友人のリチャードと暮らしていること。しばらくして、リチャードがジュンを訪ねてやってきた。カイは死んだ。ついにはジュンに、同性愛者であることを告げることなく。
映画「追憶と,踊りながら」|5月23日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

遣る瀬無い空気に包まれる物語。息子を失ったジュンと、愛する人を失ったリチャード。それぞれ、異なる愛情を同じ人に向け、それゆえに反目もし、そしてその行き場を失ったときにお互いを理解もするふたり。唯一の接点を失ったことで出会ったふたりの胸にやってくるのは、やっぱりカイへの愛情と、喪失感。埋められないその不在がふたりの心をそれでも静かに近づけていく。

カイは最後まで本当のことを母親に言えなかった。ジュンは気づいていたかもしれない。でも彼女は英語も話せないままで、その孤独を知るからこそカイは言えなかったんだろう。彼らがイギリス人だったらもしかしたら言えたのかもしれないけど、そのあたり東南アジアではどうなんだろう。リチャードはそんな彼をちょっと不満に思っていたかもしれない。堂々と自分を紹介してくれればよかったのに。でももう、そんなことを言う相手はいない。

監督は、カンボジア出身で現在はロンドンに暮らすホン・カウで気鋭の若手だそう。自身のルーツを反映させながら、家族の愛と、恋人への愛を重ね、静かにつづりました。本当に静かな90分弱の物語で、会話劇で大きなドラマはない中で、いろんな情感を漂わせるのは評価されるのもうなずける感じ。もっと大きな物語を描いたらどんなだろう。

思い出は人を優しくしますね。幸せな記憶が、遺された人を支えるものなのかもしれません。
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by april_cinema | 2015-05-23 00:00 | Starter | Comments(0)
2015年 05月 23日
感想_チャッピー
b0130850_1225751.gifだいぶ見やすかったです。『チャッピー』5月23日公開。2016年ヨハネスブルグ。ロボット警察が活躍する世界で、研究者のディオンはAIの開発に成功するも、それは危険なものとして搭載を認められなかった。そこでディオンは極秘でスクラップロボットにAIを搭載、誕生したのは人間の子供のような「チャッピー」だった。しかし、チャッピーは街のギャングに奪われてしまう。人間同様に育ち始めるチャッピーは、ギャングの流儀を身につけ、ストリートで生きる術を獲得。だが、彼は知ってしまう。自分のバッテリー=寿命があと5日しかないことを。知能を持つチャッピーは、死の意味も理解していた。
映画『チャッピー』 | オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ

『第9地区』も『エリジウム』もイマイチ乗り切れなかった僕ですが、これはすごく楽しめたなー。なんだろ、話がシンプルだからか、予算が増えてチープさが消えたからか、よくわかんないけど面白かったです。まずは純粋無垢なチャッピーが、ギャングに育てられるという話。これ人間界だったら漫画とかでありそうな話だけど、AIとヨハネスブルグの危険地帯って組み合わせは面白かったわ。ロボットだけど赤子同然に好奇心を持ち、恐れを持ち、無知なるものとして描かれるチャッピーがかわいいのね。でも能力はやたら高いという。お絵描きしてたはずが、気付けばアクセをジャラジャラしてガニマタでギャングのごとく歩き始める滑稽さ!

でも話はそこで終わらずに、チャッピーが死を恐れ、何をするのかというところへと向かいます。すでに感情移入してる我々としては、チャッピーになんとか生き延びてほしいと思うわけで、で、大オチがけっこうまさかの展開。こうなると今度は倫理の問題が突然ふってわいてくるという。最初に、人工知能が認められなかった理由はここにあるわけですね。はたして人間とはなんなのか。命とはなんなのか。コピーされた意識ははたしてなんと呼ぶべきなのか。

近頃のSF映画じゃAIは当たり前のものとして登場してきて、これが現実世界となる日も近いんじゃないかと思わせるけれどどうなんだろう。この映画ですぐに何かが怖い、って感じにはならないけれど、人口知能までいかなくともロボットの世界が確実に近づいているような気はします。人間、本気だすと作るからね、なんでも。

人口知能だけじゃなく、ヨハネスブルグの問題もあれば、環境が人間性を作るという面だったり、なにげに多様なグラデーションを持った作品。エンタメとしても満足度高い良作だと思います。
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by april_cinema | 2015-05-23 00:00 | All-Star | Comments(0)
2015年 04月 17日
感想_グッド・ライ〜いちばん優しい嘘〜
b0130850_1921257.gif勇気の物語。『グッド・ライ〜いちばん優しい嘘〜』4月17日公開。1983年、内戦に揺れるスーダンで、マメールは両親を殺される。兄のテオに率いられ兄弟たちと難民キャンプを目指すが、道中で兄は囚われの身に。13年後、難民キャンプで育ったマメールら4人はアメリカに引き取られる。キャンプとはギャップがありすぎる、すべてが見た事のない初めての世界で、彼らが歩んだ人生とは。
映画「グッド・ライ~いちばん優しい嘘~」公式サイト

実話をベースにしたハートフルな物語。いい話でした。まずはスーダンの内戦から始まり、30年前のできごとだけど、今も似たようなことが起きていると思うと胸が痛む。ここをしっかり描いているのはこの映画にとって大事なことだったように思うわ。そして舞台はアメリカへ。英語こそ話せるものの、あまりにも大きなカルチャーギャップを面白おかしく描き出す。ナイフやストローの使い方もわからない。ペットフードの存在や、賞味期限切れの食料を捨てることへの抵抗。その他さまざまな普通じゃないできごと。彼らの視点で語る都会の異常性みたいなものもあらためて少し感じてしまったり。

そんな世界において、マメールらが失わない部族の誇りがまぶしくて。あんなにひどい目にあいながらも、祖国を思い、兄弟を愛し、ともに暮らすことをなによりも大事にすること。内側に刻まれ、血に流れるルーツへの誇りを失わないこと。そのあまりにもピュアな生き様に、自分を省みるわ。周囲への感謝とか、恵まれているとは一応思っているけれど、祖先や神への感謝という気持ちは、ほとんど持ち合わせていないもんな。それをただ環境のせいにしてはいけないような気がする。

そして、クライマックスに訪れる「嘘」。伏線はとってつけた感じだったかもしれないけど、正しい嘘もあるということを、マメールの勇気が示す。真の勇気とはなんなのか。命をかけて兵士の前に出たテオ。そして時が流れ、テオの勇敢さに応えるマメール。その優しい嘘と勇気の裏側にあるのも、家族の絆であり、部族の誇りなんだろうな。

彼らの誇りが、キャリーはじめアメリカの人の心を動かすのもよくわかる。僕の心も、静かに温かく揺さぶられたもの。良作です。
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by april_cinema | 2015-04-17 00:00 | All-Star | Comments(0)
2015年 04月 17日
感想_セッション
b0130850_19225236.gif9分間のドラムマスター!!! 『セッション』4月17日公開。音楽名門校1年のドラム奏者、ニーマン。偉大な音楽家を夢見る彼に声をかけてきたのは、校内の評判も高い教師フレッチャー。しかしそれは地獄の始まりだった。フレッチャーの練習に参加したニーマンは、恐怖でクラスを支配するフレッチャーと、その異常なまでに緊張感を目の当たりにし、衝撃を受ける。差別用語まじりにバンドを罵倒し続けるフレッチャーに認められるべく、ニーマンは取り憑かれたようにドラムを叩き続ける。その先に待っていたのは、狂気の世界だった。
映画『セッション』公式サイト

アカデミー賞を騒がせ、鬼教師役のJKシモンズが助演男優賞を受賞。その中身は、強烈に魂を削り合い罵り合いぶつけ合う、ジャズ界のリトルスターウォーズ! 最初は音楽版スポ根くらいに見ていたけどとんでもない。完全にそこは戦場だったよ。フレッチャーが見ているのはただただ最高の高みで、そのためにはいかなる手段も辞さず、そして一切の妥協や甘えを許さない。今の時代、絶対に許されないほどの強烈すぎるやり方が半端じゃないぜ。でもニーマンもただの甘ちゃんじゃなく、真っ向からその勝負に挑み続けるからすごい。そして心を失くしていくのはまさに戦地帰りの兵士と同じ。もはや彼の生きる場所は戦場しかないという。。

シモンズの怪演は確かに半端じゃなかったよ。完全に鬼軍曹つーか、鬼神と化してました。ただでさえ顔が怖いうえになんかマッチョだったし、黒のピタTがハマりすぎ。動きのすべてに怒りのようなものがにじんでいて、指先からも視線からもそれをほとばしらせていたわ。でも、主演のマイルズ・テラー君だって負けちゃいなかったよ。ジョン・キューザックに似てると思いつつ、優男のようでありながら文字通り血を流しながら叩き続ける姿。フレッチャーと渡り合う目つき。ドラムは初心者だったそうだけど、よくここまで叩けたなー! もちろん音はあててるんだろうけど、鬼気迫る感じも、病的な感じも伝わったわ。学生らしい高揚感や、恋人への横柄な態度もすべてよかった。

それらを煽り続ける映像もお見事。冒頭から緊張感フルマックスで、ドラムソロ、バンドシーン、そしてフレッチャーの独壇場を、巧みなカット割りで魅せる魅せる。一秒もだれることないそのストーリーテリング能力すごいわ。監督、若干28歳とは恐れ入る。デイミアン・チャゼルの名前を覚えておこう。ついでにニーマンの彼女役のメリッサ・ブノワちゃんもかわいこちゃんだったから覚えておかないとな。

で、中盤以降の展開もぶっ飛びですが、それすらも軽々飛び越えちゃう驚愕のラスト。『4分間のピアニスト』を時間的にも内容的にも超えちまったスーパープレイ!!! 史上最高のドラムソロであり、セッションでした。頭ん中でドラムビートが鳴り止まないよ!!

異常なまでの緊張感、卓越した演技とシナリオ、そして高みに上るためならどこまでが許されるのか。倫理や道徳を超えた、神の領域を目指す人間の所業、今年ベスト級の完璧な作品でした!

<追記>
なにやら論争が起きてるってヤフートップに出てて、菊地成孔さんと町山さんのブログを読んで、おかしなことになってるなーと。でも菊地さんの意見はわりと納得のいく専門家の意見という気がしたわ。そしてこれを読んで、フレッチャーは確かにただのイカれたおっさんだったと気づいたわ。最後の騙し討ちとかひどい話だしね。町山さんのフォローはそれに比べるとちょっと弱かったなーと思いつつ、でもとりあえずすげー面白かったことだけは保証しますよ。今年必見の1本!
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by april_cinema | 2015-04-17 00:00 | MVP | Comments(0)