2009年 05月 02日
子供はみんな時代の子、か。『ベルサイユの子』5月2日公開。幼い息子エンゾを連れ、一夜の宿を求めて彷徨うニーナ。ベルサイユ近くの森に迷い込み、出会ったのはホームレス生活を続けるダミアン。ゆきずりに身を任せたあくる日、ニーナはエンゾをおいて消えてしまう。頼るもののないエンゾはダミアンの手を握り、ダミアンは仕方なくエンゾの面倒をみる。なにもない毎日の中、2人には父子のような絆が芽生えていたが。 ベルサイユの子:Versailles 黙して語らないタイプの映画で、だけれど退屈させたりしないのはすごいよね。陰鬱とした画の中で、言葉ではない部分で複雑かつ繊細な感情を語りかけてきます。ニーナは、決してエンゾを捨てたわけではない。ただ、エンゾを生かすために職を得なくてはならず、突発的に彼女は一人で外に出てしまっただけ。どうすれば未来が開けるのかわからないままに。そんな、"持ってなさ"をわずかに救う、ホームでの老女の言葉がなんともいえない意味を持つ。 ダミアンは、父親とうまくいかな生い立ちの中で、期せずして息子のような存在を持つ。孤独だった心は、エンゾに頼られることで人間らしさを取り戻して行くのが興味深い。どんなに突っ張ってもやっぱり一人では生きていけないということを暗に示しておきながら、それでいてあの終盤の展開。そうは単純明快に過去は変えられないのか。親子とはなんて難しい関係なんでしょ。ときに血のつながりよりも濃い絆があり、しかし血の縛りが人生を大きく左右して。 エンゾは犠牲者である。自分を置き去りにした母。結局は自分を放棄した疑似父。伸ばした手は空を切り、負の連鎖が受け継がれる。ラストで彼は救われるのか。それとも結局は同じことが繰り返されるのか。彼はどんな大人になり、やがては子を持つことになるのか。 宮部みゆきが著作の中で「子供はみんな時代の子」ということを書いていたけれど、まさにそれがピタリと当てはまる映画。タイトルもまさにそんな感じで、ベルサイユっていうとキラビやかな宮殿かと思ってたのに、こんな世界も広がっているんだね。光と影の対比のメタファーにはもってこいってか。親子という言葉の裏に秘められた人間同士の生っぽい関係性。楽しい映画じゃないし見終わって唸ってしまうけど、中身のある映画でした。
by april_cinema
| 2009-05-02 00:00
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