2009年 05月 16日
映画は淡々と語ります。『夏時間の庭』5月16日公開。母親の誕生日に実家に集まった3人の子供たちとその家族。75歳の母は、自分が死んだあとは、画家だった叔父の遺した作品や彼の習作、集めた美術品、そしてこの家を長男フレデリックに託す。そして母は亡くなり、数々の美術品と家の処遇を、兄弟たちは話し合う。フレデリックはすべて自分たちで保管することを望み、妹と弟は、売却を希望する。 映画|夏時間の庭|オフィシャルサイト フランス映画らしいと言っていいのかな、すんごく淡々と描かれて行くある家族の話。美術品の相続っていう設定以外はどこにでもありそうな親子の会話たちが、どこへ向かって行くのか。なかなか輪郭を表してこない。パリ郊外の母の家は、とても美しい自然があふれていて、家そのものにも時間を経たよさが漂っている。土地の歴史と家族の歴史が、融和している姿はあるべき家の姿って言えそうなくらい。 ほとんどラストになって、ようやくこの映画のポイントが姿を現す。それは、何はともあれ、どんな形にしても、世代を超えて何かが受け継がれていくってこと。そしてじゃあ何を受け継ぐべきか、という囁くような問いかけ。なにが良くて、なにが悪い、みたいなはっきりした答えは映画の中に示されなくて、すべては観客一人ひとりに委ねられる。親から子へ、そのまた子へ。ここでは数々の美術品と家を媒介にしながら、伝わっていく(時に伝わっていかない)想い。モノそのものよりもそこに宿っている時間と繋がりがなんともいえず温かさをかもす。 美術品コレクションの一部は美術館へ収蔵される。一部は売却される。また一部は使用人が持ち帰る。果たしてどうするのが最もいい選択だったのか。それは誰にもわからないし、言ってしまえば誰にもどうしようもできないのかもしれない。時間の流れを止めることができないように。形あるものはいつか壊れ、変化は避けられず、しかし壊れた物を修復することも変わってしまったものをもう一度変えることも不可能ではない。たとえ形をとどめたとしてもそれはあくまでモノでしかないのかもしれない。モノの価値が大切なのではなく、モノにどんな想いがあるか、それを尊重できるかどうか、そういうことが大切なのかもね。 明確な筋や答えが示される映画なので、確実に人を選びます。でも、この最後の投げかけはけっこう好きでした。なんたって、この映画に全面協力しているオルセー美術館にも行ったばっかだしね。絵画や骨董だけじゃない、家具や装飾品まで含めて人の手から人の手へと渡って行くからこそ価値があるものもあるね。もちろん美術品に限らず、ブロカントにも。 ついでに、ジュリエット・ビノシュの金髪が新鮮だったのは、ボクだけでしょうか?
by april_cinema
| 2009-05-16 00:00
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