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2010年 01月 23日
感想_すべては海になる
感想_すべては海になる_b0130850_159981.jpg脚本やテーマはいいと思う。『すべては海になる』1月23日公開。書店員の千野は、「愛がわからない人へ」という自分セレクトのコーナーを持つ女性。ポップを書くことにどこか救いを求める彼女自身も、たったひとつの愛というものを信じ切れずにいた。ある日、万引きをした婦人を止めたことをきっかけに、その女性の高校生になる息子・光司と知り合う。「死にたいと思ったことがない17歳なんてよっぽど恵まれてるか、馬鹿だ」というほど真っ直ぐな光司と千野は、本を通して少しずつお互いを理解し始める。
『すべては海になる』オフィシャルサイト 佐藤江梨子・柳楽優弥ダブル主演 - MSNムービー

ストーリーはとても興味深いものがあったと思う。高校時代に援助交際していた過去を持つ20代の女性と、まさにその思春期にいる高校生。年齢も性別も悩みも境遇も違うけど、だけど同じ痛みを共有する二人。すでにそれを体験として知っている大人と今まさに味わっている男子の静かな交流というのはなかなか惹き付けるものがあるよね。話の展開も、プロットだけ見ればなかなか先を読ませず、ありがちにも落とさずでよかったです。劇中小説『小島小鳥の冒険』も楽しかったし、そのラストを伏線にしたとも言える終わり方もグッド。いろいろと琴線に触れるセンテンス、台詞がちりばめられてて、それらを拾って行くだけでも味わい深いな。

脚本、そして監督までつとめたのは山田あかねさん。wikiを見ると、『すいか』『やっぱり猫が好き』『時効警察』などに携わってるじゃない。が、本に比べると演出はあと一歩なのかしら。まず、主演ふたり以外の主要人物をわかりやすく悪者に仕立ててしまったことでリアリティが弱まっちゃった。要潤の行動は、まあ後半で一応のフォローはあるけれどあまりに軽薄過ぎるキャラだけにまだマイナスが強い。光司の両親にはまるで救いがないところや、同級生の悪質さも、対比的な狙いだろうとはいえちょっと偏りがありすぎて感情移入を妨げてしまってもったいなかったな。こんなに落とさずとも、もっとさりげないつまずきだけでも千野と光司の抱える生きづらさってのは伝えられた気がするなーと思うと惜しい。

思っていたほど「本」というキーアイテムは重要なエッセンスではなく、あくまで生きていくうえでの思うにまかせない感じと、でもそれを諦めるんじゃなく向き合えたときに見えるすがすがしさを主題にした作品。死を連想させるタイトルや、その前提にたった生の意味や希望という視点には共感できました。主演ふたりは決して上手ではないけれど、それが逆にこの作品には合っているのかも。原作も読んでみようと思ってます。

by april_cinema | 2010-01-23 00:00 | Starter


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