2010年 09月 11日
![]() 9.11公開・映画『悪人』OFFICIAL SITE あの大長編を映画化。原作は吉田修一らしからぬ社会派サスペンスでかなり面白かったわけで、これを映画化するとは随分な難題だなーと。ボリュームもあるし、テーマ重いし。でも李相日のことは信用しているから楽しみにしていたのです。ふたを開けてみると、さすがは李相日といってよかったんじゃないかなー。重厚なテーマを、丁寧に描いて、最後の最後で掬い上げます。オレは、李相日を"ださいくらいの必死さをちゃんと撮ってくれる人"と評しているのですが、今作もまさにそう。 逃げ出す祐一の生活感とコミュニケーション下手ゆえの誤解されやすさ、光代の平凡で不運な女ならではの淋しさ、佳乃の父の無念さと愛情、祐一の祖母や、佳乃の母といったところも丹念に描いているからこそ、そしてそれはものすごく地味な展開だからこそ、クライマックスの佳乃の父の言葉が完全に機能し、この映画を映画たらしめているのです。東宝とは思えないエンタメ性の低さで、はっきり言って一般ウケはあんまり見込めないと思う。キャストは豪華だから、ある程度のヒットはするかもしれないけれど、とにかくシリアスだし。でも、それだけの質量のある映画をよくぞ撮ってくれた。 実は微妙に『ゆれる』方式をとっているところが巧妙で、祐一は確かに佳乃に手をかけるけど、それが最終的に絶命に至ったのかどうかが明らかにはされない。ゆえに、祐一が本当に犯人なのかはわからない。むしろ、与えられた情報からは、そうではないのではという可能性もちらつかされる。というか、祐一じゃないと思いたくさせるところが巧妙。だからラストが切ないのね。光代のために手をかける祐一の選択。そういう選び方しかできない祐一の不器用さ。大切な人を守るための悪事に、いったいどんな罪を与えればいいのか。そして誰が救われるというのか。奇妙にねじれてしまった歯車は、なにをどうしていたら正常になったのか。その遣る瀬なさが増幅されて観客に投げかけられます。さあ、本当の悪人は誰なんだ、と。観客席から傍観するお前らなんじゃないのか、とも(曲解しすぎか)。 妻夫木君は、祐一の行き場のなさを出せてたと思うし、深っちゃんはまさかのベッドシーンも。満島ひかりの憎たらしさは最高で、岡田君は力量不足だと思うけどギリギリセーフ。柄本サンと樹木希林に関してはなにも言うことあるわけなし。どんだけ役者なんだか、この人たちは。撮影もよかったし、業界ウケはしそうな1本。ああ、モントリオールで女優賞ですか、そうですか。さて、マーケットにどれだけ受け入れられるのか。興味深いです。少なくとも、原作ファンを失望させるような映画ではないと、断言しておきましょう。
by april_cinema
| 2010-09-11 00:00
| All-Star
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