2011年 08月 13日
感想_未来を生きる君たちへ
b0130850_228253.gif世界はどこまで赦すことができるか。『未来を生きる君たちへ』8月13日公開。アントンは医師として定期的にアフリカの難民キャンプを訪れている。そこは、"ビッグマン"と呼ばれる権力者が妊婦を殺害するような世界。アントンが暮らすデンマークには2人の息子と、別居中の妻がいた。息子エリアスは学校でいじめを受けている。そこにやってきたイギリスからの転校生クリスチャン。彼らの間でトラブルが起きるが、アントンはエリアスとクリスチャンに、報復や暴力の無意味さを説く。しかし…。
映画『未来を生きる君たちへ』(英題:イン・ア・ベター・ワールド)公式サイト

もはや名匠のひとりに据えてもいんじゃね?なスサンネ・ビア最新作は、ゴールデングローブ&アカデミーの外国語映画賞を受賞したというからこりゃ期待せずにはいられません。してその中身は、重厚でシリアスなテーマを盛り込み、それでいて彼女らしく、でも今までより広がりが出た力作だったな。ただスケールアップするのではなく、個人の、そして家族の物語という軸はぶらさずに、でもより多くの人の心に訴えかける力強さが加わったような気がしたわ。熟練というのかしらん。

得意の瞳のクローズアップは封印し、そのかわりに差し込まれるのはさまざまな風景。静かだけれど、とまっているものはない。風にはためくアフリカの民族衣装。風力発電の風車。世界は同じではいられないことを、示唆しているんだろうか。私たちは時間とともに流れ流されてゆき、時間は元には戻らないけれど、私たちの関係は元に戻れるのかどうか。その問いかけも一つのテーマかもね。

主題は、復讐と赦し。暴力と寛容。人はいったいどこまで赦すことができるのだろうか。小さな反抗からエリアスとクリスチャンが引き起こした事件は、大きな波紋を投げかけつつ、彼らは身をもって赦しの意味を知る。アントンの行動が理解できなかったエリアスは、赦されることで初めてその意味を知る。同時に父の愛情も。根本的な背景に家族の愛を置くのもスサンネ流。セックスにも重きを置いているのも、やはり人の温もりというものに根源的回答を求めているんだと思う。し、共感できるな。アントンとエリアスは本当に人間ができていて、この父にしてこの息子あり、ってか。この境地にいたるのはなかなか難しいぜ。

そして、この映画に最大の意味をもたらしているのは、アフリカパート。ビッグマンの行為はとても容認できるものではなく、だけどアントンの取った行動は、肯定も否定もできない。このあまりにも一方的で救いようの無い暴力に対して私たちは何を持って対抗していけばいいのだろうか。復讐を肯定できないけれど、この暴力を受容することは死を意味しているあの場所で。答えは各々の中にあるのだけれど、それは所変われば一瞬で無にもなってしまうもの。それが綺麗ごとではない、現実。

「どうしてこんなことになった」「わからないわ」。アントンと妻の会話がすべてでもある。私たちの手には負えない"わけのわからないもの"が、日常を一瞬で壊すことがままある。赦しと悲しみと怒りの中で、私たちはどこまでアントンに近づけるんだろう。
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by april_cinema | 2011-08-13 00:00 | All-Star


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