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2014年 03月 07日
感想_それでも夜は明ける
感想_それでも夜は明ける_b0130850_23345584.gif時間がたつほど広がる余韻。『それでも夜は明ける』3月7日公開。19世紀アメリカ、ヴァイオリニストのソロモンは自由黒人として、妻とふたりの子供と幸せに暮らしていた。ある日、知人を介して紹介されたワシントンでの2週間の興行に参加し、その成功に祝杯をあげる。目覚めると、両手両足は鎖でつながれ見たこともない部屋にいた。あっという間に船に乗せられ、運ばれたのはニューオーリンズの奴隷市場。彼は、誘拐されすべてを奪われ奴隷として売られたのだった。
映画『それでも夜は明ける』公式サイト 3月7日(金)TOHOシネマズ みゆき座 他 全国順次ロードショー

アカデミー賞作品賞受賞の大注目作は、19世紀奴隷制度を真っ向から描いた作品。重いです。日本人からするとなじみの少ない奴隷制度だけに、置いて行かれる可能性もあり。どっちかといえば、『大統領の執事の涙』のほうが時代をハイライト的に切ってるので入り込みやすい。こっちはそれよりも100年前、つまり差別意識もより強く、そこに完全にフォーカスしているので、しんどいです。てかこれは差別じゃなくて、ほんまもんの奴隷だった。そこ、間違えちゃいけないね。

実話がベースで、ソロモンその人が記した原作が元になっています。という通り、ソロモンは12年の奴隷生活からなんとか復帰してはいるんだけど、だからといってこれはお涙頂戴の物語なんかではない。普通に暮らしていた一人の人間が、ある日そのすべてを奪われる物語。現代の常識からしたらありえなすぎるその事実が普通に行われていたことにはただただ戦慄するばかりだわ。ムチ打ち、過酷な重労働、人身売買、レイプなどなど、正視するにはあまりにきつい。しかし誘拐してまで奴隷の売買ってそんなに儲かったのか?って思ったら、この時代の少し前に外国(主にアフリカ)からの奴隷輸入が禁止になったそうで、それゆえに奴隷市場が高騰したって背景があったそうです。

さて、奴隷の主人である人物たちも興味深い。最初の雇い主であるフォードは、ソロモンに理解を示し重用もする。信心深さも持っている。しかし借金の方にソロモンを売り飛ばす。フォードの大工ティビッツは典型的負け犬根性。白人からも理解を得てはいないのに、ソロモンを打ち続ける。次の雇い主エップスはさらに複雑だ。激情型であり、コンプレックスの固まりにしか見えないが、南部ってのはそういうところだったんだろう。彼女の妻もまた恐ろしい人物。そして救世主のように現れたバス(これをブラピが演るってズルすぎ!)。しかし彼もまた自らの保身を考える人間でもあった。そして。ソロモンすらも、自分の身こそ守れど、誰かを守ることまではできないのだ。彼はたまたま生まれながらに自由黒人という身分を与えられていたに過ぎない。という事実にクラクラしてきちゃうよ。正義や悪って観点じゃもう測れないもんな。制度としてはもちろん圧倒的に悪なんだけれど。

とかなんとかを、じっくりじっくりと描き込む。安易なドラマに持ち込むことはせず、人物の心中は観客の想像にゆだねられる。思えば監督の前作『SHAME』もそうだったっけ。何が起きたかは描かれるけど、それで登場人物が何を思ったかを台詞にするようなことはない。脚本的なオチもない。それらが意味するところ、示唆する物は観る人が自ら見いだすことになるのだけど、十分すぎるほど伝わってきたわ。ソロモンの瞳。ヨルダン川の歌。最後まで気が抜けませんでした。

まったく娯楽作ではなく、コピーからイメージするような感動作でもありません。アメリカの暗部に目をやり、戒め、過ちを繰り返さないことを胸に刻み込む映画でした。

by april_cinema | 2014-03-07 00:00 | All-Star


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