2015年 04月 10日
『インターステラー』級の2度見映画。『バードマン あるいわ(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』4月10日公開。かつてヒーロー映画『バードマン』の主演俳優として一世を風靡したリーガンだったが、今は落ちぶれ、結婚生活も破綻。再起をかけて、レイモンド・カーヴァーの『愛について語るときに、我々の語ること』を自ら脚色、演出、主演を務めブロードウェイの舞台に立とうとする。しかし、娘のサムからの信頼は得られず、俳優のマイクには脅され、リーガンの頭の中では、バードマンの幻想が責め立ててくる。お前の望みは果たせたのか? お前の人生はこんなものなのか? 今年度アカデミー賞作品賞&監督賞&脚本賞&撮影賞、受賞作! 『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』公式サイト 超絶期待を持って拝見したアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ最新作にしてアカデミー賞作品! 感想は、げ、ついていけなかった! です、率直に言うと。ついていけなかったのは、映画力高過ぎるから。いろいろ予習復習した知識を含めて、確かにすごいとは思ったからもう一度見させてほしいわー。 とりあえず、さんざん出尽くしてるけど、ポイントとなる要素をまとめます。主人公はかつてバードマンというヒーロー役を演じた。主演のマイケル・キートン自身、かつてバットマンを演じていて役柄と実人生がリンクしてる。撮影が、全編ワンカットの長回しと思わせる一度も途切れないスタイル。実際は長回しとCGのつなぎでそう見せているだけどこれは確かに神業。セリフに実際の役者名とかばんばん出てきてハリウッドの裏舞台っぽい感じ。キャストのエドワード・ノートン、エマ・ストーンもヒーロー映画出演経験あり、芽が出ない女優役のナオミ・ワッツは自身の人生とダブる要素あり。あとはSNSと現実における承認欲求についてとか。それから音楽か。ドラムだけで感情を刺戟するスーパークールな感じ。 あたりの予備知識を持っておいたほうが楽しめると思うんだけれど、つまりこのあたりのリアルとフィクション、リアルとバーチャルの間を巧みに行ったり来たりする超マジックリアリズム映画なんですよね(南米で盛んなスタイル。イニャリトゥはメキシコ出身)。映像の中でも、鏡やガラスの写り込みってのを効果的に使っていて、細かい意図まで汲み取りきれなかったけど多分それもメタファーだと思われ。すべてを俯瞰するメタ視点的なところもあるし、入れ子構造とパラレルワールドが複雑に交差している感じが、なんか『インターステラー』的な多次元世界。イニャリトゥお得意の群像劇でもあるのでもう完全に360度型の映画ですわ。 簡単に言っちゃえば落ちぶれた元ヒーローの再生ってことなんだけど、けっこうダークな描かれ方なの。笑いも挟んでいるからとことん落とすわけでもないけど、役に飲み込まれて現実と妄想の境目がなくなっていく感じは『ブラックスワン』に通じてけっこう引いちゃうレベル。たぶん役者さんとか映画人からすると他人事じゃないんだろうね。万人がハマる映画じゃないと思うのは、そういう内輪ウケ感もあるから。ただ、誰もが何かの役を演じているし、その演じている役が本当の自分なのか、偽りの自分なのかわからなくなっていくという意味では普遍性もあるかもしれない。そして、リーガンよろしく「俺はこんなもんじゃない」っていう思いは、すべての人が抱えていく思いだろうし、特におっさんになればなるほど強くなるだろうし、それを客観したときの滑稽さもまた誰にでもあてはまるヒューマニズムとも言えそう。ある種のもの哀しさを伴うけどね。バードマンのように飛びたい、けど現実には人間は飛べない。その葛藤を描きます。一度飛んでしまうと戻れない哀しさも。 でまあ、最後のオチは結局どこからどこまでが現実だったのか、っていう話で、もう最初から夢オチな気もすれば、やはり舞台に銃声が響いたところでジ・エンドという気もするし、最後の最後はサムちゃんの夢というような気もするけど救急車のサイレンが鳴ってたからやっぱり落ちちゃったのかなという気もするしで、ここは議論されているみたい。オープニングが臭いの話で、エンディングも臭いの話ってのもなんかいわくありげだし、包帯ぐるぐるまきのリーガンはバードマンそのものだし、そもそもタイトルの「バードマンあるいは」っつーのも、バードマンorユー、みたいな気がするし、オープニングの「望みは果たせたか、YES I DIDみたいなのってリーガンの最期のセリフって気もしてくるしな。 と、知れば知るほどグルグルと回り続ける映画でした。とにかくすべてが緻密に計算されている感じは半端じゃなくて、そうなるとやっぱもう一回観たいわ。けっこう会話劇なので単調といえば単調なんだけどね。パンツ一丁でタイムズスクエア闊歩とかは笑えるんだけど。 <2015/05/24追記> イタリア行きの飛行機の中で、字幕なし英語で鑑賞。細かいセリフはもちろんついてけないけど、意外に初見と似たような感想を抱いたなー。でもちゃんと日本語でもう一度観たひ。 <2015/11/23追記> iTunesレンタル鑑賞してみたけど、大きな印象は変わらなかったな。すごくよくできていて面白いけど、虚々実々な映画スキルこそが最大の面白さで、その中身は捕らえどころないままだったな。一言で言うと、「いつだっておかしいほど誰もが誰か愛し愛されたいと思って生きるのさ」、って感じ。すごい作品だけど、この映画が人生のベスト10に入る!っていう人はあんまりいなそう。なんとなく。
by april_cinema
| 2015-04-10 00:00
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