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2007年 12月 08日
感想_ヒトラーの贋札
感想_ヒトラーの贋札_b0130850_0125726.jpg世界中に深いドラマが埋もれているなぁ! 『ヒトラーの贋札』1月19日公開。紙幣やパスポートの偽造でならしたユダヤ人サリーは、ベルリンで逮捕されてしまう。連行されたそこは、強制収容所だった。やがて彼はザクセンハウゼンへと移送され、そこで贋札作りを命じられる。自らの命を守るために贋ポンドを完成させたサリーほかユダヤ人技術者たち。しかしそれはナチスを助ける行為であり、すなわち同胞が依然虐殺され続けることを意味していた。
ヒトラーの贋札 / THE COUNTERFEITERS

世界最大の紙幣偽造事件とされる第二次大戦中のベルンハルト作戦をモチーフに、実在の人物をモデルにしながらフィクション要素を加えて描かれた本作。歴史の裏側に確かにあったであろうそのドラマにぐわしと心を摑まれて興味津々。実際の収容所は、もっともっと過酷だったと思われるけれど、監督は映画としてあえてエンターテインメントを意識したらしい。なるほどスリリングなドラマ性を持ち込みつつ、歴史的側面と、そこにあったユダヤ人の葛藤をうちら異国の人間にも温度を損なうことなく知らしめてくれる。

サリーは弱き英雄で(そもそも偽造屋だしね)、自らの能力で保身を果たすものの、そこに大義はなく、それが彼らを苦しめる。同胞のブルガーはナチス協力を拒否し、そこにユダヤ人としての当時の難しさが濃密に込められていて、ひいては極限下での選択という普遍的な難しさにまで触れられていて観る者をその状況に引きずり込む。自分の命を投げ出すことはできない。でも家族や仲間は守りたい。がしかし彼らに選択肢はない。

幸か不幸か、ドイツの敗戦によってこの悲劇は唐突に終わりを告げる。ラスト、解放されたサリーに、自由を感じさせるものは見えない。むしろ、収容所での爪痕だけが色濃く残っていたようで、最後の行動は、現世への絶望なのか、過去との訣別なのか、その解釈は多様。いやはや、2008年もまたドイツ発の秀作にやられることになるかも、そう思わずにいられない1本でった。

by april_cinema | 2007-12-08 00:00 | Starter


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