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2008年 08月 17日
感想_トニー滝谷
感想_トニー滝谷_b0130850_14521919.jpgこういう手があるかー! 『トニー滝谷』DVD鑑賞。ジャズ演奏家の子、トニー滝谷。幼少の頃から孤独に育った彼は、イラストレーターとして独立し、初めて恋に落ちる。やがて結婚した彼女は主婦としての才能に恵まれると同時に、洋服を買いすぎるという欠点を持っていた。トニー滝谷の周りを行き来する幸福と喪失の物語。
tony takitani official website

原作は読んでませんが、なるほど村上春樹ワールドだったな、と素直に思えるこの喪失感。あの独特の文体の多くをナレーションに託し、その中でイッセー尾形と宮沢りえがそれぞれ一人二役で存在するという手法は、正しい村上作品の映画化のように思えるわ。なんたってあの言い回しが村上春樹の大きな特徴であり、しかしてそれは台詞にしてしまうと急に大事なものが損なわれてしまうだろうから。

さて、中身を見ればそこにあるのは相対的な幸福と喪失の物語。トニー滝谷は、孤独でありながら孤独を苦とは思わなかった。なぜならば彼は孤独以外の状態を知らなかったから、真に孤独とはなんたるかを理解していなかったのだ。しかし、妻を得、そして失ったのちに彼は孤独を理解し、強く実感してしまう。すると洋服もレコードも、彼にとってはそのままの形だったはずのものが、影のような"不正確"なものに見え始めてしまうのだ。

人間の感覚の不確かさ、他人との関係によって多くのものが大きく形を変え、それは何かをいい意味でも悪い意味でも損ない続けるこの覚束なさ。そこにある人間の悲哀と滑稽さがよく表された作品でした。これは村上好き、映画好きじゃないとなかなか想像力を働かせられないかもしんないなー。

映画であって映画でないような純度の高い村上ワールド。興味深く楽しめましたわ。

by april_cinema | 2008-08-17 00:00 | Starter


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