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2015年 11月 03日
感想_アメリカン・スナイパー
b0130850_19252512.jpg何も生まないな、戦場は。『アメリカン・スナイパー』DVD鑑賞。テキサス出身のクリスは、アフリカでアメリカ大使館が攻撃されたテロ映像を見て、軍隊入りを決意。その後9.11もあり、「シールズ」の一員として、イラク戦争に派遣されることに。そこで彼は狙撃に才能を発揮し、いつしか彼はレジェンドとまで呼ばれるように。家族を国に残しながら、それでも敵を倒し、同志たちを守るために、4度にわたって戦争に参加したクリス。いつしか彼の心は蝕まれていった…。
映画『アメリカン・スナイパー』オフィシャルサイト

今年のアカデミー賞を騒がせ、アメリカで空前の大ヒットになったというイーストウッド作品をようやく鑑賞。楽しい映画じゃないとは思ってたけど、想像を絶する重く、苦しい映画でした。作品の7〜8割は戦場シーン。初めての任務で、女性と子供にも銃を向ける緊張感から、やがて取り憑かれたように敵のスナイパーを仕留めることに文字通り命をかけ、多くの敵を討ち、同時にたくさんの見方を守ったクリス。だけど、伝説というニックネームも虚しさがつきまとう。帰国後、彼に命を救われた兵士はクリスを英雄だと称えるが、それすらも漂う空気はあまりにも寒々しい。

クリスは信じる道を行ったにすぎない。でも、アメリカ側から見たからこれは英雄でこそあれど、イラク側から見れば彼は悪魔であり侵略者だった。劇中、戦争の目的は明らかにされないまま、ただただ敵の重要人物を追い、民間人も巻き込みながら戦いを繰り返す。そこに人間らしい感情はなく、文字通りの命の奪い合いがあるのみ。でも、誰もそこに疑問を感じない。わずかに疑問を口にするセリフもあったけれど、それはあっという間に銃声にかき消され、砂埃の中で見えなくなってしまう。それが戦争の実態なんだろうか。

退役軍人のPDSDは、『ハートロッカー』や、『マイ・ブラザー』なんかでも描かれてた通り。これがアメリカでヒットするということは、それだけ多くの人が関心を持ち、心を痛めているということでもあるんだろうか。クリスの中にはいつまでも銃声は鳴り止まず、愛する家族を前にしてなお、それは止められなかった。そして、ようやく克服したかのように見えたところで起きた悲劇。この映画、クリス自身の自伝の映画化だそうだけど、彼はこの完成を見ずにこの世を去ったそう。彼が亡くなったのは2013年、なんとまだ39歳。僕と3つしか歳が違わないという。想像を絶する悲劇に、言葉が出ませんでした。

戦争の悲劇と、運命を曲げられてしまったひとりの男。彼は英雄ではなく、犠牲者だったと思うと胸が痛みます。クリスのご冥福を祈ります。それにしても、役作りで18kg増量というブラッドリー・クーパー。別人の域の役者魂、しかと焼き付けました。ハングオーバー野郎がこんなに売れっ子になるなんてね〜。
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by april_cinema | 2015-11-03 00:00 | Starter
2015年 07月 18日
感想_チャップリンからの贈りもの
b0130850_2342859.jpg味があるね。『チャップリンからの贈りもの』7月18日公開。1977年のクリスマス、チャップリンが亡くなったというニュースが駆け巡る。それを見て、チャップリンの棺を盗もうと思いついたのが、出所して間もなく、失業中のエディ。友人のオスマンを誘うが真面目に暮らす彼は取り合わない。しかし、妻の入院費がどうしても必要なため、やむなく話にのることに。かくして、ドタバタと棺を盗み出すことに成功し、身代金を要求するが…。本当にあったチャップリンの棺泥棒事件をベースに、人生のおかしみを描いた一作。
映画「チャップリンからの贈りもの」公式サイト

小さなお話だけど、味わい深い佳作でした。話のノリは、ちょっと『ハイネケン誘拐の代償』と似てて、素人がお金に困って出来心で誘拐を企てて、すったもんだっていうね。大きく違うのは、あちらはなんだか悲惨な結末だったけど、こちらはもうちょっとほっこりしているところ。エディは小悪人だけどどこか憎めないし、オスマンは家族思いでとっても真面目。キャラは全然違うけど、同じ移民同士、助け合っている姿に思わず応援したくなります。

誘拐からのくだりは、喜劇タッチ。素人ゆえに棺の運び出しもなんだかおぼつかないし、なんとか盗み出してもそのあとの身代金の要求がてんでダメ。やることなすこと隙だらけで、これはとてもうまくいきそうにないという。という流れから、あっさり捕まっちゃいますけれど、というね。最後のどんでん返しは気がきいてるね〜。タイトルどおり、喜劇王ゆえの恩赦ってところでしょうか。

細かいところにチャップリンオマージュがあるようで、一瞬サイレント風になったり、ラストが『ライムライト』そのものだったりするらしいので、ファンならきっとニヤリとするはず。すごく泣けるとか、めちゃくちゃ笑えるってもんではないけど、小さなハッピーをもらえるような作風でした。
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by april_cinema | 2015-07-18 00:00 | Starter
2015年 07月 11日
感想_サイの季節
b0130850_2331199.jpgグレーの世界だ。『サイの季節』7月11日公開。1977年、詩人のサヘルは美しい妻ミナと幸せに暮らしていた。そんなふたりを羨望と嫉妬の眼差しで見る男、アクバル。そして1979年、イラン革命が勃発。サヘルは反体制的な詩を書いたという理由で30年の禁固に、ミナは共謀罪で10年の刑に処される。時は流れ2009年。出所したミナはイスタンブールに暮らしていた。サヘルは死んだと聞かされて。しかし、彼は生きており、刑期を終えて出所。ミナを探し始めるが。
映画「サイの季節」オフィシャルサイト

『ペルシャ猫を誰も知らない』のゴバディ監督の新作。イラン生れながら国内での映画製作許可が下りないという彼、ついに亡命し、今作はトルコで撮ったんだそう。題材は、実在の詩人の実体験をベースにしたもので、その歴史背景とか、監督の半生とかは予習しておいたほうが物語に入りやすそうな感じ。

話自体はシンプルだけど、時制がシャッフルされていて、あまり多くを語ることなく、主にサヘルの視点と心象風景で大半が描かれている。それはときに現実から浮遊して、悪夢のようだったり、忌まわしい記憶だったりとまざりながら展開される。重くて苦しいけど、それは突如幸せを奪われて、世界から取り残された孤独の色合いそのものなんだろう。現実に帰ってきたとき、彼はその存在を消されてしまい、生きながらも死者として存在しなくてはならない。その忸怩たる思いやいかばかりか。

そしてアクバルの重すぎる罪よ! いち運転手だった彼がどうやってそこまでの力を得たのかはよくわかんなかったけど、それが革命の混乱だったってことなのかな。ふたりの人生を狂わせてなお、みずからの欲望を優先させる業の深さもまったくやれやれだよ。でもこれも同じ人間なわけで、いっそう物語を重くしてます。

ビジュアルがアーティで、物語は重厚。なかなかこれをどう受け止めていいかわからんけど、さすが実力監督。飽きさせない作りでございました。人間て、ほんと難しい。そして歴史もまた、難しいです。
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by april_cinema | 2015-07-11 00:00 | Starter
2015年 06月 13日
感想_ハイネケン誘拐の代償
b0130850_1352842.gifなんかが足りん。『ハイネケン誘拐の代償』6月13日公開。1983年アムステルダム。妻の妊娠を知ったコルは、人生を変えなくてはと考えていた。仲間たちと共同経営していた会社は不況で倒産、銀行からの融資も断られた彼らが考えたのは、なんと巨大企業ハイネケンの経営者、フレディ・ハイネケンの誘拐だった。綿密なリサーチと作戦により、その誘拐はみごとに成功する。しかし…。
6.13 公開 映画『ハイネケン誘拐の代償』公式サイト

実話ベースですって! あのハイネケンにそんなことがあったとはつゆ知らず。興味津々だったのですが、なんかこう、意外とシュッとしなかったな。いや、おもしろいのですよ。若者5人の素人犯罪なのにけっこううまくいっちゃうのね。しかも誘拐のための資金ほしさで、まず銀行強盗する、っていう無茶苦茶な展開がまずウケる。ボートを駆使して逃げ切るあたりもアムスらしさ出てるし。さらに、ハイネケン監禁用の部屋をセルフビルドで作っちゃったり、用意周到なのか、バカなのか、よくわからないけど、実際にこれが成功してるんだから、なかなかスマートってことだよね。

がしかーし、そのまま身代金ゲットとはいかないのです。ハイネケンは不敵で、とらわれの身でありながらあれこれ要求して翻弄してくる。身代金は要求すれどもリアクションがなくて焦る。いざ身代金が出てきてもそれをどう奪い、そしてそこからどう逃げ切るのかで紛糾。最後には仲間割れして、いよいよ御用となってくるわけですが。

誘拐のメソッドよりも、この舞台裏の仲間割れに焦点が当てられているのがこの映画のユニークなところ。エンタメとして以上に、人間関係のおもしろさ、難しさ、もろさを表現してるんですね。しなきゃいいのに奥さんに電話しちゃったり、どうしても仲間うちで意見が合わなかったり。はたから見てるとなにやってんだよ!みたいなところもあるけど、もともと冷徹な犯罪人間じゃない彼らはそんなにシビアにはなりきれないという。

こうして書いてみるとなかなか見所も多い気がするんだけど、全体的に低体温でトーンが暗かったのが、なんか物足りなくさせた原因かな。もしくはもう少しこの心理面の掘り下げに、親近感を覚えられるとよかったのかな。まあでもどちらにしても衝撃の実話で、楽しめるとは思いますけれど。
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by april_cinema | 2015-06-13 00:00 | Starter
2015年 06月 06日
感想_奇跡のひと マリーとマルグリット
b0130850_1330349.gif愛は伝わるものね。『奇跡のひと マリーとマルグリット』6月6日公開。聴覚障害を持つ子供たちの学校ラルネイ聖母学院に、ひとりの少女がやってくる。髪はボサボサ、体は傷だらけ、裸足で駆け回る彼女はマリー。聴力だけでなく、視力も失っていた。修道女のマルグリットはそんな彼女の魂に打たれ、マリーの教育係を買って出る。しかしそれはとてつもない困難の道だった。
映画『奇跡のひと マリーとマルグリット』公式サイト

19世紀末の実話だそう。視力も聴力も持たず教育も受けられなかった野生児を相手に、マルグリットの献身的で粘り強い努力が最後には実るというお話。それはもう奇跡としか言いようがなくて。いったい何をどうしたら、マリーに言葉を理解させ、手話を覚えさせることができるのか。でも、マルグリットはそれをやってのけたのである。描かれるのは断片でも、その途方もなさを十分理解させる奮闘ぶり。どうやっても制御できなそうだったマリーにいったいどうやって!? 頭で考えると「無理」の一言で終わっちゃうけど、諦めなければ奇跡は起きるんだな。

マリーが沈黙と闇の中で出口を求めもがいていたのを、その魂のメッセージをキャッチしたマルグリット。彼女自身もまた不治の病を抱えていたからなのだろうか。マルグリットの魂もまた、病気や運命という檻からの解放を願っていたからこその出会いと奇跡だったのかもな。そしてふたりの出会いこそが、マルグリットに死を受け入れさせ、マリーは別れを理解し、ふたりは旅立つことになる。考えれば考えるほどこれ、崇高なできごとだな。信心とかまるでない僕だけど、学ぶべきことは多い気がするわ。

マリーの世界を広げたのはマルグリット、そしてその世界を形作ったのが「言葉」。これはナイフ。これはりんご。目でも耳でも知覚できない彼女が、手触りと手話を通して覚えていった言葉。言葉は彼女の中でどんな世界を作り上げたのだろう。それはもう想像すらできないけれど、確かに彼女の世界を、人生を、変えた。野獣のごときマリーは消え去り、秩序をもったひとりの女性が生まれた。言葉によって彼女は世界を理解し、自分を知ったんだから。

僕たちはみんな言葉で思考をする。思い、考え、伝え、黙る。すべて言葉の中で生きている。それを奪われたらまったくの無力なんだろうな。ってことまでは描いてなかったけど、そういうことだと思います。伝記ものとして得るもののある一作でした。
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by april_cinema | 2015-06-06 00:00 | Starter
2015年 04月 17日
感想_グッド・ライ〜いちばん優しい嘘〜
b0130850_1921257.gif勇気の物語。『グッド・ライ〜いちばん優しい嘘〜』4月17日公開。1983年、内戦に揺れるスーダンで、マメールは両親を殺される。兄のテオに率いられ兄弟たちと難民キャンプを目指すが、道中で兄は囚われの身に。13年後、難民キャンプで育ったマメールら4人はアメリカに引き取られる。キャンプとはギャップがありすぎる、すべてが見た事のない初めての世界で、彼らが歩んだ人生とは。
映画「グッド・ライ~いちばん優しい嘘~」公式サイト

実話をベースにしたハートフルな物語。いい話でした。まずはスーダンの内戦から始まり、30年前のできごとだけど、今も似たようなことが起きていると思うと胸が痛む。ここをしっかり描いているのはこの映画にとって大事なことだったように思うわ。そして舞台はアメリカへ。英語こそ話せるものの、あまりにも大きなカルチャーギャップを面白おかしく描き出す。ナイフやストローの使い方もわからない。ペットフードの存在や、賞味期限切れの食料を捨てることへの抵抗。その他さまざまな普通じゃないできごと。彼らの視点で語る都会の異常性みたいなものもあらためて少し感じてしまったり。

そんな世界において、マメールらが失わない部族の誇りがまぶしくて。あんなにひどい目にあいながらも、祖国を思い、兄弟を愛し、ともに暮らすことをなによりも大事にすること。内側に刻まれ、血に流れるルーツへの誇りを失わないこと。そのあまりにもピュアな生き様に、自分を省みるわ。周囲への感謝とか、恵まれているとは一応思っているけれど、祖先や神への感謝という気持ちは、ほとんど持ち合わせていないもんな。それをただ環境のせいにしてはいけないような気がする。

そして、クライマックスに訪れる「嘘」。伏線はとってつけた感じだったかもしれないけど、正しい嘘もあるということを、マメールの勇気が示す。真の勇気とはなんなのか。命をかけて兵士の前に出たテオ。そして時が流れ、テオの勇敢さに応えるマメール。その優しい嘘と勇気の裏側にあるのも、家族の絆であり、部族の誇りなんだろうな。

彼らの誇りが、キャリーはじめアメリカの人の心を動かすのもよくわかる。僕の心も、静かに温かく揺さぶられたもの。良作です。
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by april_cinema | 2015-04-17 00:00 | All-Star
2015年 04月 04日
感想_パレードへようこそ
b0130850_19195942.gif偏見を乗り越えよ! 『パレードへようこそ』4月4日公開。1984年、サッチャー首相は炭坑閉鎖案を取り合え、炭鉱夫たちはこれに反抗してストライキを起こす。それを見たマークは、権力と戦う炭鉱夫は、マイノリティで社会の片隅に追いやられている自分たちゲイの仲間だと直感し、彼らのサポートを決意。まずは寄付を募ることに。ゲイ、レズの仲間と組織されたサポートグループはその寄付を届けようと炭坑組合に連絡を取るが、ゲイのグループであることを言うだけで門前払い。ようやく寄付を受け入れてもらえたのは、ウェールズの小さな炭坑の町だったが、そこでも偏見にさらされることになり…。
映画「パレードへようこそ」オフィシャルウェブサイト

実話ベースのお話だそうで、気持ちよく最後まで見られる映画でした。差別と偏見にさらされていた80年代のゲイやレズビアンたちと、時代の変化の中で苦境に立たされていた炭鉱夫たち。全然違うクラスタが、全然違う目的を持ちながらも、互いを理解し合う様子が爽やかに描かれております。今でこそLGBTへの理解が進んでいるように感じるけど、ほんの30年前まではこんなにも露骨な偏見があったのですな。かくいう僕も、LGBTの題材が映画でさんざん取り上げられているから知ったような気になったいるけど、どのくらい現実的に理解しているかといわれると自信ないところもあるかな。特に差別を持つ気はないけれども、女装する男性や男装する女性のことは奇異の目で見ちゃうんだろうな。

さて、展開自体はわりと予想通りというか、炭坑の町でも仲間になってくれる人と、受け入れてくれない人とにわかれ、すったもんだの末に徐々にわかり合っていくというパターン。この手の話の映画、わりと続いている気がするので、そこまで目新しさがないのはもったいないけど、ビル・ナイとか、イメルダ・スタウントンとか、ジョージ・マッケイとか、イギリスの名優たちが集まっていい感じに仕上げてます。80'sなビジュアルや音楽もナイスで、見どころのひとつ。

あらためて、世界ってのは多様性に満ちていて、性的趣向も、育った環境も、ひとつで括るのは土台無理な話で、どれだけ自分と違う立場やものの考え方に対してオープンでいられるかってことだよな。それを拒んだときに、今のイスラム国のような争いも生まれてしまうのだろうし、寛容性の考え方ってほんと難しいわ。受け入れるものを間違えるとまた争いになったり、無秩序が生まれたりもするわけで。なるべくニュートラルな自分でいたいものだな、と思います。
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by april_cinema | 2015-04-04 00:00 | Starter
2015年 03月 13日
感想_博士と彼女のセオリー
b0130850_11151796.gifグッとくるけどさー。『博士と彼女のセオリー』3月13日公開。理論物理学を専攻するスティーヴンは、聡明な女性ジェーンと出会い恋に落ちる。しかし、間も無く体に異変が起き始める。何もないところで転び、チョークを持つ手が震える。診断は、運動ニューロン障害、余命2年。絶望するスティーヴンだったが、ジェーンは彼と生きる覚悟を決めふたりは結婚。病気の進行は止まらないが、ふたりは数々の困難を乗り越え、スティーヴンは素晴らしい研究成果をあげる。
映画『博士と彼女のセオリー』2015年3月13日(金)TOHOシネマズシャンテ他全国ロードショー

スティーヴン・ホーキング博士と、彼を支え続けたジェーンの家族の物語。実話です。ふたりともご存命です。アカデミー賞もにぎわせた注目の作品だったけど、思ったより僕には刺さらなかったのです。多分意図的だと思うんだけど、終盤までかなり淡々としてたんだよな。過剰にドラマチックにせずにあえて抑えていたのだとは思うのだけど、スティーヴンとジェーンの歴史の中でのターニングポイントでの感情の揺れとか、葛藤とかが、あまりにさらりと描かれてたのがもったいなかったのかなと。それでも最後、授賞式のスピーチに泣かされ、ジェーンと離れるときの一言にふたりの足跡が集約されててグッときただけに、前半でもう少しためが効いてたら一気に持ってかれたんじゃないかと思うのだけど。ふたりの人生を描くにはちょっと浅かったか。

絶賛されてる主演のエディ・レッドメイン君は確かによかった。ホーキング博士になりきり、体の自由を奪われていく姿を見事に表現。体は動かずとも心までは自由を失うことはなく、わずかな表情と動作でメッセージを伝える様子はすごかったね。だけど、やっぱりどうしてもシナリオに起伏が少なかったから、そのがんばりがあまり伝わらなかった気もしている。だったら『フォックスキャッチャー』のスティーヴ・カレルのほうが怪演だったんじゃないかって思ったな。あと、障害を乗り越えるって意味では『潜水服は蝶の夢を見る』のほうが震えた。同じことはフェリシティ・ジョーンズにも言えそうで、勇敢で聡明で、しかし介護疲れをし、ジョナサンに心揺れる様子は確かに伝わったけど、それ以上のなにか言葉にならない部分てところまでは出てこなかったようにも思ったんです。

それでもそれでも、クライマックスはよかったんだよなー! スピーチで、落ちたペンを拾えたならば。ずっとスティーヴンが抱え続けた無念さがありながら、でも彼は心折れることなくそこに立っていた。いや、何度も折れたのかもしれないけれどそれを乗り越え、素晴らしい偉業を成し遂げて。うん、やっぱりそういう折れたのか、乗り越えたのか、そういう葛藤をもう少し見たかったんだと思うわ。てのはさておいて、希望を捨てない姿が感動を呼ぶね。これはもう映画がどうのというより、ホーキング博士が素晴らしかったって話だよね。

とどめはラスト、「見ろよ、俺たちが作り出してきたものを」。『6歳のぼくが大人になるまで。』を彷彿させる、時間の流れを振り返らせて泣けたわ。劇中はあえて触れなかったのか、2年の余命はどこへいったのか、何十年と生きてきたこと。それはジェーンなくして成し遂げられなかったこと。ふたりの歩いた道は美談だけじゃ到底片付けられないんだろうけど、心を動かす終わり方でした。
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by april_cinema | 2015-03-13 00:00 | Starter
2015年 03月 13日
感想_イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密
b0130850_19102926.gif解けないのは暗号よりも人の心。『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』3月13日公開。第二次大戦下、ドイツ軍の進撃を止めるため、彼らの使う暗号を読み解くチームが結成される。そこに加わったひとりがアラン・チューリング。天才数学者であるアランは変わり者ゆえにチーム内で疎まれながらも、暗号解析のためのマシン"クリストファー"作りを進める。しかし、思うような成果があがらず、チーム解散の危機が迫る。極秘で進められたその計画と、アランが抱えた秘密に迫る、事実に基づいた物語。
<公式>映画『イミテーション・ゲーム / エニグマと天才数学者の秘密』オフィシャルサイト|3月13日(金)ロードショー

抑えめのストーリーテリングながら、それは抑制の効いた実に理性的で美しいシナリオ! タイトル、テーマにふさわしい知的ゲームのような作品でした。すごく面白かった! でもこれは、単なるエンターテインメントではありません。話の主軸は、ドイツ軍の暗号「エニグマ」を読み解くことにありながら、それを紡ぐテーマは秘密と嘘。暗号解き、スパイ活動など国家レベルの秘密から、組織の決まりごとや恋の駆け引きといったパーソナルな嘘まで含めた、人間の心理の読み解けない複雑さこそが主題として横たわってました。これはなんとも素敵な伏線いっぱいストーリー!

例えばアランは、決定的な秘密をひとつ抱えている。妻となる女性にその事実を隠し、そして真実を告げながら彼はもうひとつ別の嘘をつく。でも、彼女はきっとそれにも気づいていたよね。だけど受け入れたんだよね。それはマシンには導き出せないなんとも人間的な答え。学生時代のアランが負った傷もまた、人間心理の複雑さを示す。秘めた愛情と、最愛の人に打ち明けてもらえなかった秘密。それは彼の人格にどんな影響を与えただろう。心を閉ざしただろうか。嘘はつかないと誓わせただろうか(だから彼は冗談を言えなくなった)。でも、あのときにはわからなかったことを、アランはこの仕事の中で知っただろう。人は、良かれと思って嘘をつくことが、少なからずあるということを。

アカデミー賞候補にもなった、ベネディクト・カンバーバッチ、さすがのいい仕事。こういうキレ者、カワリ者はお手の物だろうね。コリン・ファースの次は彼と言う感じがすごくします。ヒュー役の彼もイケメンだったし、妻となる人を演じたキーラもよかったね。『はじまりのうた』のナチュラル美人もよかったけど、こういうクラシカルなお転婆ギャルもいけちゃうんだね。顔は美人なような怖いようなって気がしちゃうけど。どの作品でもキレるキーラの顔が忘れられなくて怖いぜ。

しかしこれが実話であり、国家機密としてつい最近まで伏せられてたり(この事実もまた映画のテーマとリンクする)、世の中には知らないこと、知らないほうがいいことがゴマンとあるわけですな。特定秘密法案について、ふと思ったりもしちゃったり。なんにしても、これだけの骨太で親密なテーマを織り込みながら、3つの時代を織り交ぜて編み込んだプロットはお見事というほかないかと。大興奮するタイプの映画じゃないけど、ものすごく精巧な傑作のひとつだと思います!
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by april_cinema | 2015-03-13 00:00 | MVP
2015年 02月 14日
感想_フォックスキャッチャー
b0130850_1154450.gif激渋。『フォックスキャッチャー』2月14日公開。ロス五輪レスリング金メダリストのマークのもとに、大富豪のジョン・デュポンから連絡がきた。彼は自分のレスリングチームに、破格の年俸でマークを誘う。マークはデュポンの思想に魅せられ契約を結び、同じくメダリストでありコーチでもある兄のデイヴにも声をかけるが、デイヴは家族との暮らしを優先させ誘いを断る。マークは、最新の設備でトレーニングを始め、87年の世界大会に優勝。ソウル五輪に向け順調な一歩を踏み出したかと思ったが、デュポンとの関係がこじれはじめ…。
フォックスキャッチャー

アカデミー賞5部門にノミネートで話題の一作。シリアスなドラマだろうと思ってはいたけど、予想以上に重たいというか、相当に渋かったわ。同じくベネット・ミラー監督作品『カポーティ』のときと同じ感じ。観終わった直後の感想は、「なにこれ?」でした。とにかくデュポンが何考えてるのか意味不明で、最後までそれは解消されず。説明はほとんどなされず、母との関係が悪かったこと、なにかしらトラウマなのか障害なのかをかかえていたんだろうな、というのは想像できるけども。後で聞いた話(&wiki情報)では、彼はゲイでもあったとかで、レスリング界ではけっこう有名な変わり者だったそう。

マーク&デイヴに関しても、説明はほとんどない。冒頭の描写で、マークが困窮してることはわかったけど、兄弟の関係性に深く切り込んでいるわけではない。でもマークは実力はありながらもメンタル脆いところがあって、だから兄が父のようにカバーしていることはよくわかった。そこにデュポンという異分子が入ったことで悲劇が起こったんだな、と一つ一つ反芻していくと味わい深い。けど、初見はポカン確実。かなり映画力要求される描き方だと思います。男たちの奇妙な三角関係。

しっかし役者たちがすごかったぜマジで。スティーヴ・カレル、付け鼻のせいもあるけど別人かと思わせる演技。表情はなく行動は不可解、動きも違和感だらけ。心がここにないあの感じを出せるのはさすがだな。それからマークに扮したチャニング。もともとすごいカラダだけど、輪をかけてでかくなっててレスラーそのもの。『ファイター』のマーク・ウォルバーグみたいだったな。そしてやけになって自分を殴って鏡に頭たたきつけるのすごかったわ。そしてそして、セクシーさを封印したマーク・ラファロもすごーーー! ハゲひげ親父な子煩悩かつ弟想いの父替わり、そしてレスラーでありコーチであり。ただひとつの失敗は、デュポンのオファーを受けてしまったことか。悲しいなぁしかし。

これが実話と思うとやれやれとしかいいようがない、なんとも不穏な1本でしたわ。フォックスキャッチャーという名前に込められたメタファーもいろいろ意味づけできそ。
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by april_cinema | 2015-02-14 00:00 | Starter